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Stories of coins and color stones

東京の不動産はバブルか

2016年10月

今回は久々に不動産のお話しをさせていただきます。最近お客様からこのようなご質問を頂くことがあります。

『ここ数年で日本の不動産の価格はずいぶん上がりましたが、バブルではないですか?』

確かに随分と上がりましたね、バブルか否かについて考える際、例えばこんなエピソードがあります。

それは僕がこの事務所を作った直後のお客さんのお話しで、その方は東京の日本橋にワルーム・マンションをお買いになりました。その物件は築3年ほどの新しい物件で、当時の価格は1600万円ほどだったと記憶しています。賃料は確か8万円ほどで収益率は当時6%ほどもありました、今思えばずいぶんと高い収益を得られたものです。手取りベースでも5.2%ほどもありましたので、大変いい投資だったと思います。

あれから10年ほど経ってそのお客さんからお礼のメールをいただきました、なんでも周辺の相場は2000万円ほどに上がっているそうで、含み益の状態にあるとのこと。さらに空室もほんどなく、この10年で800万円ほどの賃貸料をとれたとのことで、とてもお喜びでした。

上記は一例ですが、他にも類する事例はたくさんあります。今思えばあのころの不動産は安すぎたと思います。当時との対比でみれば確かに現在の「日本橋、築15年、2000万円」は高いのですが、冷静に考えればどうでしょう。この10年賃料はほとんど変わっていませんので、表面で4.8%(注)、手取りベースで4.2%の収益率は低いような気もします。が、例えば日本国債の利率をみればどうでしょう。

注)(12か月×8万円)÷2000万円=4.8%

以下は当時と今の10年物日本国債の利回り比較です。

  • 2006年時点 ⇒1.6%ほど
  • 2016年現在 ⇒ほぼゼロ(実際にはマイナスですが・・)

なぜ僕がここで日本国債との比較を持ち出したかといいますと、国債は全くリスクがない資産、つまり「無リスク資産」と考えられており、その国のあらゆる金融商品の基準となるからです。日本国債も破たんリスクはあるのですが、金融の世界では国債はリスクがないという前提で理論を組み立てるわけです。

さてそこで不動産のお話しです。上記のように10年前の日本橋のワンルームマンションの収益率はネットで5.2%、これに対して無リスク資産である10年物日本国債の利回りは約1.6%でした。これはどういうことかといいますと、日本橋ワンルームの収益率は、以下のように無リスク資産の収益率1.6%の上に、不動産固有のリターンである3.6%が乗っかっているイメージになります。ここでいう「不動産固有のリターン」といいますのは、私たちが地震や火事、空室や滞納、あるいは老朽化による価値の減少、さらには流動性の欠如など、不動産がもつさまざまな欠点(すなわち「リスク」)を、負担する対価として得られる収益のことです。ちょっと難しくてすみませんが、あらゆる金融商品は「無リスク資産」の収益と、この「固有の上乗せ部分」のリターンに分解することができます。

では10年後の現在、この状況はどう変化しているでしょうか。上記のように10年債の利回りはほぼゼロで、日本橋ワンルームのネットベースの収益率は4.2%ですから、以下のようになります。

以上の比較から私たちは以下のようなことを知ることができます。

  1. この10年の間、日本橋のワンルームマンションの収益率は5.2%から4.2%に低下した。
  2. この10年の間、無リスク資産である国債の収益率は1.6%から0%に低下した。
  3. 従ってこの10年の間、「不動産の固有のリターン」は逆に3.6%から4.2%に上昇した。

簡単にいってしまえば、この10年の間のワンルームマンションの値上がりは、すべて日本国債のリターン低下(言い換えれば「日本国債の価格上昇」)で説明がついてしまい、不動産固有の価値は上がっていない(注)ことになるわけです。その意味で東京の不動産は、バブル的兆候を示していないといえるでしょう。

注)むしろ「不動産固有のリターン」は上記のように3.6%から4.2%に上がっているので、厳密にいえば「不動産固有の価値」は下がっているとさえ言えますが、ここではお話しが難しくなるので、上記のような表現をいたしました。

ちょっと理屈っぽいとお感じになるかもですが、以上が金融の視点から見た不動産価格の分解です。

あるいはもっと体感的にわかりやすい角度から日本(というか東京都心の)不動産価格が、果たしてバブルか否かについて考えてみたいと思います。例えばアジアの都市間競争という視点です、東京が都市として競争の土俵に乗っているとすれば、その相手はシンガポール、香港、北京、上海といったアジア近隣の都市になるでしょう。ではそれら諸都市の不動産投資から得られる収益率はどうでしょう、さきほど日本橋の収益率はネットベースで4.2%と申しましたが、この数字はこれら諸都市と比べずいぶん低いことが分かります、香港、シンガポール、北京など都市部のコンドミニアム(マンション)の収益率は2%前後にすぎません、昨今は国境をまたいだ投資が活発に行われているにも関わらず、これら諸都市と比べると、東京の収益率の高さ、つまり物件価格の低さが際立っています、そのような観点でも僕はバブル的な要素は(いまのところ)感じません。

あるいは比較ではなく、投資に値するか否かという絶対的な視点で日本橋ワンルームをみるとどうでしょう、ネットベースの収益率が4.2%ということは、その逆数(1÷4.2%)である約24年で初期投資を回収できるということです。一方で例えば築15年のマンションの稼働年数はいかほどでしょうか?仮にワンルームが低めに見積もって50年稼働するとすれば、あと35年(50年-15年=35年)は稼働することになり、初期投資の回収に要する期間(24年)を大幅に上回ることになります、しかもワンルームには土地の持ち分がありますから、35年後まで持ち切ったあとも、土地の持ち分は残ることになるわけです。

以上のことなど総合的に考えて、東京の不動産にはバブル的な兆候は(いまのところ)見られないというのが僕の考えです。