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Stories of coins and color stones

古代ギリシャ・ローマコインの魅力

2018年8月9日

今回はコインのお話しをさせていただきます、このような仕事をしていますとよく『これからどんなコインを持てばいいですか』とよく聞かれます、僕の頭の中には値上がりしそうなコイン群はいくつもありますが、「値上がりするコイン」=「持つに値するコイン」かといえば、必ずしもそうではないような気もします。

もちろん儲かるかどうかという観点も大切ではありますが、それ以外に歴史的な観点からみた重要性、美術品としてみた場合の美しさなども、コイン収集にとって重要な要素ではないかと僕は思います、もしコイン収集が単なる投資や投機なら、せっかく日本でも盛り上がってきたコイン収集が、一過性の単なる投機や投資ブームに終わってしまうような気がするのです。さまざまな動機を持った収集家がコイン市場に入ってくることによって、マーケットはより厚みを増して定着するのではないでしょうか。

古代ギリシャ・ローマコインの魅力

そのような観点で僕は古代ギリシャやローマ時代のコインをお勧めしたいと思います。

儲かるかどうかという観点でいえば、正直申し上げてさほどの期待は持てません。例えば昨今のイギリスやオーストリアの近代金貨、数年前のロシアや中国コインのような急騰はまずないと思います。事実この数年あるいは十数年という時間軸で過去を振り返っても、古代コインにはブームと呼ばれるような値上がり局面はありませんでした、世界中に愛好家はたくさんいるのですが、不思議と投機的なマネーはこの領域に入ってくることはありませんでした。例えば隆盛を極めたローマ帝国にしろ、古代ギリシャやマケドニアにしろ、いまの時代を生きる彼らの末裔は、経済的には決して成功しているとは言えません。古代ギリシャ・ローマのコインにお金が入りにくいのは、このような事情があると僕は思います、どこの国でも、まずは自国のコインが収集の対象になりますので。

ただし逆に言えばギリシャ・ローマのコインほど値下がりしにくい領域は無いと僕は思っています、山高ければ谷深し、逆もまた真なりです。古代コインを投資対象としてみるのはあまり気が進みませんが、あえて申し上げればローリスク・ローリターンが古代コインの特徴といってよいのではないでしょうか、ただしさきほど申し上げた『歴史的な観点からみた重要性、美術品としてみた場合の美しさ』という点で古代コインを見ますと、素晴らしい銘品がいくつもあります、以下思いつくままに僕の趣味で数点のコインを挙げさせていただきます。

僕が好きな古代のコイン達

まずは人類が作った最初の金貨、古代リディア王国の1/3スターテル金貨です、作られたのは紀元前610年から同546年です、写真は大きく映っていますが直径は1センチ前後、重さは5グラム弱の小さなコインです。

(古代リディア、1/3スターテル金貨:ヘリテージ・オークションサイトより転載)

向かって左はリディア王国の紋章であるライオンの頭部です、少し見えづらいですがライオンの鼻の上には小さな星がのっています、右側は単純な刻印で特に意味はなく、古代金貨によくみられるものです、当時のリディア王国は今のトルコにあり隆盛を誇っていました、このコインは自然界にある金と銀の合金(エレクトラムといいます)で作られており、それだけに材質が不均質で刻印も稚拙です。上のコインは状態が悪く見えますが、これでもAUクラスの状態の良いコインです。人類が最初に鋳造した金貨という知識をもってこのコインをみれば、その稚拙さがかえっていい味わいを醸し出しているようにみえてきます、貴重な歴史遺産といえるでしょう、現在の価値はこのような比較的状態の良い個体で50万円~70万円といったところです。

次にあげたいのは古代マケドニアで作られたスターテル金貨です、作られたのはアレクサンドロス3世(アレキサンダー大王)統治下、紀元前336年から同323年までです、直径は1.7センチ前後、重さは8グラム強あり、さきほどのリディアの1/3スターテルに比べると大型です、肖像面は女神アテネでヘルメットを冠っています、裏面は女神ニケ(ナイキの語源です)の立像です。アレキサンダーは当時中東にあった大国ペルシャを征服したのち、同国から奪った大量の金貨でこのコインを作りました。ですから枚数は結構残っているのですが、このコインの魅力は精緻なデザインです、洗練された図柄でとても2300年も前に作られたものとは思えません、あの卑弥呼からさらに500年前の時代ですよ。ご参考までに今の取引価格は状態の良い個体で80万円~100万円ほどです。ここ数年でずいぶん値上がりしました、古代コインの例外の一つです。

(古代マケドニア、アレキサンダー3世のスターテル金貨:ヘリテージ・オークション社サイトより転載)

続いて銀貨を一つ、紀元前300年から250年にかけて、いまでいうトルコ沖合の、コス島という小さな島のカリアという国で作られたテトラドラクマ銀貨です、向かって左はこの時代によくみられるヘラクレス頭像ですが、ユニークなのは裏面のカニさんです、カニの寓意を僕は知りませんが、写実的デザインの刻印でしっかりと打たれており興味をそそられます、「なんでコインにカニが?」といいたくなってしまいます、このコインに限らす古代ギリシャのコインには、他にもフクロウやセミ、イセエビやマグロ、イルカ、ライオンや牡牛、象、馬・・いろんな生き物が刻印されていて、それらを集めるだけで結構楽しめます。価格は状態の良いもので40万円から50万円とてごろですが、見つけようとしてもなかなか手にはいらないコインです。

(古代カリア、ヘラクレス像4ドラクマ金貨:個人蔵)

最後は金貨で締めたいと思います、下のコインは古代のプトレマイオス朝エジプトで作られたオクタドラクマ金貨です。プトレマイオス朝エジプトはアレキサンダー大王の急死によって成立した王国のひとつで、初代の大さまはアレキサンダーの部将だったプトレマイオス1世です。このコインの肖像は同朝6代目の大さまプトレマイオス3世で、裏面はコーヌコピアといって豊かさの象徴です。もともとは羊の角のデザインだそうで、ヨーロッパのコインには時々現れます。このコインの特徴は何といってもその大きさで、直径は2.7センチほど、重さは約27グラムですから1オンスほどもあります、いまでは1オンスの金貨などさほど珍しくもないのですが、当時の特に地中海世界では、金の産出量はたかだか知れており、この金貨は群を抜いた大玉です、当時エジプトでは良質な金山があったそうで、古代エジプトならではの大変希少なコインです、このコインも古代コインのなかでは珍しく近年値上がりしており、直近では状態の良い個体は300万円以上の値が付きます。ご覧のように大変精緻な刻印で作られており、とても2200年も前に作られたコインとは思えません。僕の大好きな古代コインの一枚です。

(古代プトレマイオス朝エジプト、プトレマイオス3世オクタドラクマ金貨:個人蔵)

以上いくつか僕が好きな古代コインを紹介してまいりました、ここ十数年間ほとんど値動きしていないギリシャ・ローマ時代のコインが多いなか、上記のようにいくつかのコインは例外的な値上がりを見せました、こうやって振り返りますと、やはり枚数が少ないコインやデザイン性に優れたコイン、歴史的な重要性を持つコインなどは、この時代のコインの中でもやはり値上がりしているんだなと僕自身も改めて気づきました。古代ギリシャ・ローマのコインは、国という枠組みを超えた人類共通の資産なのかもしれませんね。