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From the economic column I wrote in the past

危機の本質とその帰結

2016年6月

イギリスのEU離脱はなぜ起きてしまったのか・・・そして危機の連鎖はおきるのか。今回はこんなお話しを少ししてみたいと思います、先日配信したメルマガで、すでにサラッと考えてみたのですが、今回はもっと深く考えてみたいと思います、うまくまとまるかどうか、正直よくわかりませんが・・・

世界の経済が新しい段階に入っているのか否か・・ここは冷静に見極める必要があると思います、そのためには一時の心情や気分に左右されることなく、目の前で起きている現象を冷静に分析する必要があります。確かにここ数年を振り返りますと、リーマン・ショック、欧州債務危機、中国ショック、日欧のマイナス金利、そして今回のイギリス・ショック。わずか8年のうちにずいぶんと異例のできごとが起きました。ではそれ以前はどうだったのでしょう、例えば1997年にはアジア通貨危機がありましたし、その連鎖で翌年ロシアが債務不履行を起こしました、さらにその問題は米国のヘッジファンドに連鎖し、同年LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント社)の破たんへと至りました。

注)LTCM:米国の大手ヘッジファンド、ノーベル経済学賞受賞者が2名も在籍しており、高い収益を誇っていました、同ファンドはロシア国債で大量のレバレッジ取引を行っていたことが災いし、突然破たんしました。

そのあと世界の注目を集めたのは米国発のITバブルの崩壊で、2000年に米国のNASDAQ指数は、5100台のピークから一気に1300まで下げました。

このように過去を振り返りますと、確かに1997年から2000年にかけての数年間に、世界経済は大きな変動に見舞われたことがわかります。では当時と2008年以降を比べるとどうなのでしょうか。

私は明らかに問題の規模や頻度、そして連鎖性が大きくなってきているような気がしますし。例えばアジア危機を振り返りますと、確かに日本を含むアジアにとって大きな危機だったことは間違いありませんが、例えばリーマン・ショックのような世界的な規模で展開したかと言えば、せいぜいロシアからブラジル、アルゼンチンへと波及し、これらの国が債務不履行に至った程度で済みました。「程度で済みました」といえば多少語弊があるかもしれませんが、世界経済という大局をみれば、まあ「済みました」と表現してもよいのではないかと思います。その後起きた米国のITバブルの総括も同様で、米国以外への波及は限定的でした。いずれもローカルな問題に終わったといってよいでしょう。

この程度の僅かのサンプルで即断するのは危険かもしれませんが、どうも僕には傾向として頻度、規模、連鎖性などにおいて、近年起きる危機は明らかに深刻度を増しているような気がしてなりません。

以上現象面のみを見てきましたが、理論的に見ても上記を裏付ける材料はあります。

まず世界の金融システムがつながりを深め、一国や一地域の危機が、世界に連鎖しやすい状態になったという点です、さらに金融取引のコンピュータ化、高速化が進展し、市場参加者の心理が増幅しやすい点も、危機の振幅や連鎖を拡大しているといえるでしょう。

さらには日米欧で進めてきた金融緩和政策の影響です。もともとはリーマン・ショックからの脱出と、経済の正常化を目標に進められてきた政策ですが、その結果市場に大量のマネーが供給され、これがかえってマネーと実体経済のバランスを危ういものにしてしまいました。市場にあふれたマネーはさまざまな相場に流入し、かつ流出し、相場の変動幅を大きくしました。安定を目的に行われたマネーの大量印刷によって、かえって世界経済を不安定なるという皮肉な結果になったといえるでしょう。

では、そもそもなぜ日米欧が異例の金融緩和政策にのめりこんでいったのでしょうか・・・この点について考えた場合、「世界経済の成長鈍化」という根本的な問題に行き着かざるをえないような気がします。かつても高成長時代の世界であれば、例えばリーマン・ショック級の出来事があっても、その後の経済成長により、自然治癒が期待できたのではないでしょうか。かつてのITバブルやアジア危機のように・・・

このような文脈でイギリスのEU離脱を見れば、投票の結果がなぜあのような意外なものになったのか、理解できるような気もします。もはやイギリス国民は自国経済の将来に対し、健全な成長を期待していないのではないでしょうか、その結果、異教や異国に対する寛容力を失い、一国繁栄主義に陥ったのではないかと僕は思います。これを政治家が敏感にとらえ、不寛容を増幅させたという面も見逃せません。

この考えが正しいとすれば、心配性な僕などはちょっと怖い連想をしてしまいます。例えばアメリカでトランプさんが支持を集めていますが、この現象もイギリスの一国主義と根っこは同じで、つきつめれば経済成長に対する暗い見通しに行きついてしまいます、フランスやドイツなどで起きている同様の現象も、本質において同根ではないでしょうか。

さてここからは今後の予想です。

まず今回の問題は先月の本レポートでお話ししたように、イギリスはもちろん世界の実態経済に与える影響も軽微だと僕は思っています、なぜならリーマン・ショックなどと違い、手続き上の問題だからです。その前提でここからのお話しを進めてまいります。

昔から「ブラジルで蝶が羽ばたけば、テキサスで嵐が起きる」などとも言われます。これはほんのわずかな初期データの違いで、その後起こる出来事の幅はどんどん広がり、思わぬ未来が展開するという意味です。世界的な金融システムの連鎖性の高まりと、取引速度の高速化、過剰なマネーの相乗効果によって、私たちの目の前に展開される将来は、その振幅という点で、今後ますます拡散してゆくでしょう。つまり不確実性の高まりです。今回のイギリスのEU離脱の影響も、例えばたった一人のネットの書き込みや、政治家一人の発言で、思わぬ展開を見せる可能性は十分あると思います。

欧州域内で考えると、例えばギリシャの債務問題や、南欧の銀行が抱える不良債権問題への波及、もっと広く世界レベルで考えると、先月の本レポートでお話しした中国の不良債権問題への思わぬ波及など、危機の連鎖が起きても不思議ではありません。

では今回のイギリス離脱ショックが、さまざまな連鎖経路を経て、世界的な金融ショックに広がるのでしょうか・・・可能性はゼロではないでしょうが、確率がどの程度あるかといえばそれはカオスの領域で、予測すること自体意味がないように思います。

むしろ私たちが認識しておくべきことは、今回の問題の本質が世界経済の成長鈍化と金融システムの連鎖性にあり、これからも同様のショックが、繰り返し起きる可能性が高いということです。そして何年かに一度は、(安倍さんではありませんが)リーマン・ショック級の危機に拡大するでしょう、向こう一年の間に起きるのか、それとも三年先なのか・・・これは本質論ではありません。本質は私たちが住む世界が、常に予測不能な危機の予備軍であふれているということではないでしょうか。

では予見できない金融ショックに対し、私たちはどのようして備えておけばよいのでしょう。

これについてはいつも申し上げていますので詳しく触れませんが、結局は資産の地理的分散と質的分散に尽きると思います。金融システムから隔離された金融商品、例えば貴金属、コイン、色石など、あるいはしっかりと地に足が付いた不動産を一定額持つことが重要だと思います。マネーの対極にある、このような現物資産は、きっと私たちの“資産のアンカー”として機能するはずです。