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From the economic column I wrote in the past

新産業は興るか

2016年8月

アメリカでサマーズ元財務長官などが「長期停滞論」を唱えていますが、確かにここ数年、世界の経済成長力は徐々に低下しつつあるように思います。この問題についてあまり関心をお持ちでない方が多いように感じますが、私たち日本人にとって大変重要な問題ではないかと思います。

例えば日銀の黒田さんが2%のインフレ目標にむけ、異例の金融緩和策を導入しましたが、その源流をさかのぼれば「長期停滞論」にたどり着きます。国としての成長性が低下したから、人為的に経済を活性化する必要があるわけで、例えば1970年あたりの高度成長時代において、このように強烈な金融緩和策を採る必要はありませんでした。逆に金融政策と言えば、インフレや経済の過熱を抑制するためのもので、当時と比べ日本銀行の目標は180度転換したといってよいでしょう。これはわが国だけの特異な現象ではなく、アメリカやヨーロッパの先進国はもとより、高成長を維持してきたかつてのBRICs、さらには東南アジアの新興諸国ですら同様です。つまり世界はすでに長期停滞期に入ったという見立ては、十分に成り立つといってよいでしょう。

仮にこの長期停滞論が正しければ、各国の中央銀行は緩和的な金融緩和策を続けざるを得ず、今後ますますマネー過多状態や、マイナス金利状態が続くことになり、これは世界経済にとって必ずしも健全な未来ではありません。逆に停滞期は一時的なもので、近々世界が新しい成長期に入るとすれば、金融政策もまた正常化すると考えてよいでしょう。焦点は世界を成長させる新しい産業が興るか否かです。

この点について僕は必ずしも楽観しているわけではありませんが、一つの希望を持っています。皆さんもInternet of Things(以下IoT)という言葉を耳にされたことがあると思いますが、世界経済を再加速させる新産業が興るとするならば、僕はこのIoT分野ではないかと思います。すべての機器がインターネットにつながり、人工知能(AI)によって制御される新しい世界の到来です。

新しい世界では、例えば工場のラインはすべて自動化され、組み立てからシステムの制御、部品の補充まで、大半の作業は無人運転されることになるでしょう。物流でも自動化が進み、発注や在庫管理、配送先管理、あるいはドライバーが行ってきた配送作業さえ、自動運転技術によって無人化がみえてきました。家庭内にもIoTは入りこみ、例えばネットに接続された冷蔵庫から自動的に食材を発注し、届いた品物を家庭内ロボットが受け取るといった近未来が、案外と早く訪れるかもしれません。

IoTによって、20世紀の後半のIT革命のような成長が、再び訪れるのでしょうか・・・それともIoTは過去にいくつも起きたブーム、例えば超電導や太陽光発電のように、小規模なものに終わるのでしょうか。

繰り返しになりますがこの問題は、働き方や生活だけに止まらず、金融政策を経由して資産運用という観点でも、私たちの将来に極めて大きな影響をもつと思います。しかも結論はここ数年のうちに見えてくる可能性が高く、注意をもってみておく必要があるのではないでしょうか。