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Stories of coins and color stones

鑑定に出すべきか・・・

2017年2月

今回はちょっと趣向を変えまして、コイン収集やコイン投資に関する問題点を一つ取りあげてお話ししたいと思います。

僕自身もそうでしたが、コイン収集を始めたころ一番困ったのは、コインの状態による価格の違いでした、どのコインの何年銘がいくらか程度のことは、カタログや過去のオークション相場をみればだいたい見当がつき、労力さえ惜しまなければ何とかなるのですが、一つ一つのコイン個体の価格ともなれば、状態による価格差が激しく、よほど目を肥やさなければ相場観を養うことはできません。一例をあげますと下のコインです。

このコインは1741年にイギリスで造られた5ギニーという金貨で、ここ数年値上がりの顕著な銘柄です、上記のコインの状態は極美品(EF)クラスで、現在の相場は600万円前後になります。このコインもそうですが同時代に造られたヨーロッパの金貨には、穴をあけたり金属で突起物を溶接し、そこに穴をあけて首からぶら下げたりする習慣が見られます。このような処理を施したコインは、いわゆる“修正品”扱いになり、価値が大幅に下がることになるわけです、仮に上記ジョージ2世の5ギニー金貨にそのような修正が加えられていたとしたら、そのコインは例えば「マウント痕アリ、美品-」といった扱いになり、価格もせいぜい150万円程度が相場ということになってしまいます。
このような修正痕はある程度目が慣れてくればわかるようになりますし、まともなコイン商なら「修正品」として値付けをしていますので、購入する際はそのつもりで買えば何ら問題はありません。

一番悩むのはこのような露骨な修正ではなく、「洗浄痕アリ」や「クリーニング」、「過剰なヘアライン(注)」といった微妙な瑕疵(かし=欠点)です。

注)ヘアライン:コイン表面にできてしまうわずかな線状の痕跡、これが過剰にあるコインは「ヘアラインあり」とみられ価値が下がります。

それこそ300年近い年月が経っていますので、まったく使用痕がないコインなどありません。たとえ全く使用せず、イギリスの貴族がサイドボードに大切にしまっていたとしても、何代にもわたり引き継がれてくるなかで、かならず人が触れたり、自然に浮かび上がる金錆び(きんさび)などを除去するため、子孫が布で軽くふいたりするものです。その結果たとえ未使用に近いコインであっても、微妙にクリーニングの跡が付いてしまったり、ヘアラインができてしまったりするわけです。

ただしクリーニングやヘアラインも主観的な色彩が強く、ある人にとって過剰なヘアラインであっても別の人は全く気にならないということは珍しくはないのです、事実そうやってコインというものは自然と一枚一枚相場が出来上がり、みなそれを織り込みつつ売買を繰り返してきたといえるでしょう。

ところが最近困ったことが起きています、それはアメリカの鑑定会社による鑑定です。

PCGSやNGCなどアメリカには大手のコイン鑑定会社があり、かれらは一枚一枚コインの真贋を鑑定すると同時に、以下写真のようなスラブ(=ケース)にいれ、同時にコインを数字で評価します。

下の写真はいずれもNGC社による鑑定済みコインですが、左側のコインにはMS65と数字による評価が見られますが、右側はいかがでしょうか。右側のコインには数字は見られず、その代わり「UNC Details」との表記をご覧いただけると思います。Detailsというのは簡単にいえば「詳細に見れば瑕疵あり」という感じの意味で、これがついてしまうと、コインによっては半値以下の価値になる場合もあるのです。

私たちがスラブに入った鑑定済みコインを買う場合、数字による評価や、場合によっては数字が付かないという評価は大変便利であり、たとえコインに関する知識がない買い手であっても、カタログや過去のオークション相場をみれば、そのコインがいったいいくらの価値があるか、比較的容易に知ることができるのです。ですからコインの鑑定は、ある意味ではとても便利な仕組みといってよいでしょう。

ところが逆に問題点もあります、例えばスラブに入っていないコイン(「裸のコイン」)を鑑定に出すべきか否かという問題です。NGCにしろPCGSにしろ、鑑定を行うのは生身の人間で、しかも鑑定人は数十名もいるわけです。彼らは過去の鑑定事例を見ながら一枚一枚評価してゆくわけですが、所詮は人間がやることで、100%客観性をもって評価できるわけではありません、ある鑑定人にとって「過剰なヘアライン」であっても、別の鑑定人からみれば許容範囲にみえることも珍しくありません。さらに数字をアンダーグレード(低い数字を付ける)しがちな鑑定人、逆にオーバーグレードする鑑定人・・・さまざまです、そのため鑑定に出すのは一種のギャンブルに近いとすら言われます。

コインの鑑定はコイン価格の評価を容易にし、知識のない人でもコイン投資ができるというメリットがあるのですが、一方で上記のように鑑定会社や鑑定人によるバラツキが生じ、逆にコインの価格形成をゆがめてしまうという負の側面もあります。

今後アメリカ式のコイン鑑定がどのように進化するのかわかりませんが、私たちは何より数字(あるいは数字が付かないこと)に対し過剰な信頼を置かないこと、そして鑑定によるバラツキのリスクがあることを前提に、鑑定に出すべきか否か考えることが重要ではないかと思います。