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How to determine coin prices

コインの価格はどうやってきまる?

一般に日本では、「未使用品」「準未使用品」「極美品」「美品」「並品」というランクを付けてコインを評価しています。最初のころ誤解しやすいのは、例えば「美品」という表現で、これを文字通り「美しい品」ととってはいけません。例えば大学の評価でいえば、美品は優・良・可の可にあたります、つまり「まあそれほど悪くはないが、どこにでもありふれたコインだね」というニュアンスです。一般にこのようなコインは投資対象にはなりにくいのですが、必ずしもすべてのコインにこの基準が当てはまるまるわけではありません。

「未使用品」クラスの明治1円銀貨(明治37年)、磨き痕が無く銀本来の落ち着いた輝きを持っています、右側写真では葉っぱの葉脈が摩耗なく見えます。目安価格は3~5万円ほどです。

「美品」クラスの明治1円銀貨(明治37年)、裏表ともに摩耗が進み表面の凹凸が小さくなっています、一円の「一」の文字には小さなキズもあり葉脈も見えにくくなっています。なお全体的に銀さびがついていますが、これは必ずしも減点にはなりません。目安価格は1万円前後です。

例えば1800年代後半に発行され、いまでもたくさん残っているコインに関しては、その通りなのですが、1500年代や1600年代などに造られた希少なコインでは事情が違います。このようなコインには、たとえば1000枚あるいは100枚、場合によっては数枚というように、ごくわずかしか残っていないものも珍しくはありません。希少性の高いコインに関しては、そもそも「ある」ということ自体が稀で、例えば美品程度のコインでも十分投資対象になる場合もあります、このあたりがコインの奥深いところです。

上記で日本の状態区分についてお話ししましたが、欧米にはまた別の区分があります。例えばイギリスでは、状態のよい順番に、UNC(Uncirculated)、AU(Almost Uncirculated)、EF(Extra Fine)、VF(Very Fine)、F(Fine)、G(Good)。さらにこれらの文字の横に+、-をつけ、たとえばEF+、UNC-というように、微妙なニュアンスを表現しようとします。

アメリカにゆけば、この格付けはさらに細かくなり、数字でコインの状態を表現いたします。PCGSやNGCなど鑑定会社が行うグレ-ディングでは、例えばAU58、MS63といったアルファベットと数字の組み合わせでコインの評価を行います。アルファベットの方はそのコインの大まかな評価で、例えばAUなら極美品程度、MSとつけば準未使用から未使用品というわけです。数字は最大70までの値をとりますが、1~70まで連続しているわけではありません。例えば55の次は58までありませんし、その次は60といった具合です、それでも評価は全部で30段階もあり、日本やヨーロッパに比べ、細かい評価を行っており、投資の際の参考になります。このようにして、極力コインの評価から主観的な要素を排除しようとしているといってよいでしょう、このあたり私は実にアメリカらしいと思います。客観的な細かい評価基準があれば、例えばネットやオークションなどで、コインをいちいち見なくても大量に売買あるいは投資することができますので、ある意味では合理的な仕組みといえるでしょう。

アメリカの鑑定会社(PCGS社)によって鑑定されたコイン、このコインはMS63と評価されており、日本流にいえば未使用状態といってよいでしょう。1642年に神聖ローマ帝国の統治下のアウグスブルグで鋳造された1ターレル銀貨です、肖像は神聖ローマ皇帝フェルディナンド3世です。目安価格は20万円前後。

コインの価格を決める二つ目の要素は残存枚数です、ここで注意が必要なのは鋳造枚数ではないところです。いくら大量に造られたコインでも、さまざまな事情からほとんど残っていない場合があります。例えば昭和5年に鋳造された日本の新20円金貨です。

明治新20円金貨、昭和5年発行。目安価格は600万円ほど。

この金貨は当初1000万枚以上も作られたのですが、どうも生まれた時期が悪かったようで、ちょうど昭和恐慌と重なってしまいました。世界的な恐慌のなか政府がとった金の輸出解禁策により、この金貨はそのほとんどが海外に流出し溶解されるか、あるいは国内で発行される前に溶解されてしまいました。その結果残存枚数がわずか数枚という悲しい状態になっています、ちなみに現在の価格は600万円を超えます。このように大量に発行されたにも関わらず、残存枚数が少ないコインは他にもたくさんあります。発行枚数より残存枚数が大切な事例としてあげさせていただきました。

他にもコインの投資価値を決める要素はあります、例えば発行された国です。アメリカやイギリス、フランス、ドイツなどは歴史的にコイン収集家が多い国ですが、一般にコインの収集家は自国のコインを好む傾向にあります、したがってこれらの国のコインは総じて値が高いといえるでしょうし、今後もこの傾向は続くでしょう。デザインも重要な要素です、馬が描かれたコインを集める人、鳥が好きな人、船が好きな人・・・さまざまですが、なんといっても一番人気は王様や皇帝や教皇など、時の領主や権力者の肖像を描いたコインです。これらも投資の際の一つの基準になるでしょう。例えば同じ時代のコインでも、肖像が描かれたコインと、そうでないコインでは相場に開きが見られるケースがみられます。

世界で最も美しいといわれるイギリスの5ポンド金貨、通称「ウナとライオン」。鋳造枚数は僅か400枚、デザインの美しさと希少性で大変人気のあるコインです、現在の相場は未使用品クラスで3000万円前後

また鋳造された都市や年号によって、驚くほど値段が違うコインもあります。一例だけあげるなら、例えばスペイン統治下のメキシコで鋳造された8レアル銀貨、いわゆるピラーダラーです。メキシコで造られたこのコインは、当時建国したばかりのアメリカでも使われ、今でもアメリカで人気があるのですが、特に鋳造初年度の1732年銘は好まれ、状態の良いもので300万円を軽く超えます。一方でそれ以外の並み年は10万円前後にすぎません、年号によって価格差が違う好例で、投資の際の参考になるでしょう。

スペインの8レアル銀貨「ピラーダラー」1832年初年号、極美品クラスで100万円を超える、柱に帯がまとわりついたデザインはドル($)の起源と言われています。

このようにコインの価格はさまざまな要素によって異なりますので、最低限そのあたりの知識はお持ちになったうえで購入されるとよいでしょう。ただ膨大な数のコイン一つ一つについて、このような知識を持つことは難しいでしょう、最初のうちは信頼できるコイン商やアドバイザーの意見を参考に、投資するコインをお決めになるべきではないかと思います。ただし最近はコイン投資ブームに乗っかり、法外な価格でコインを販売する“俄かコイン商”が数社あるのでご注意ください、これらの新興コイン商は書籍やサイトなどで派手に集客し、一般の相場の2倍ほどの価格をつけて販売しています、きれいなショールームや立食形式のセミナーなどに惑わされないようにご注意ください。