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From the economic column I wrote in the past

インフレ税、最後の選択肢

2016年9月

大半の日本人はすでに理解していると思いますが、日本の財政を正常化に導く唯一の方策はインフレ誘導だといってよいでしょう。すでに1000兆円以上に膨らんだ公的な債務をこれからコツコツと返済し、例えば対GDP比100%の範囲、すなわち500兆円程度まで減らすことはどう考えてもムリというものしょう。ときどきプライマリーバランスをゼロにできれば債務は増えないとの誤解も目にしますが、決してそのようなことはありません。プライマリーバランスは、国債の利払いを勘案しない収支のバランスのことであり、仮にバランスが達成できたとしても債務の増加がストップするわけではありません。それ以降も債務の元本である1000兆円に対する利払い費が、毎年雪だるま式に増えてゆくからです。家計に例えるなら収入と支出がバランスしても、金利分だけドンドン借金が増えてゆくイメージです。つまりプライマリーバランスの達成は、財政破たん回避の必要条件ではありますが、決して十分条件ではないのです。

ではこの1000兆円の債務を減らす方策はないのでしょうか・・・

冒頭に申しましたように、インフレしか方法がないことは明らかです。仮に日銀が目指すように毎年2%ずつインフレが進行し続けばどうでしょう。この場合貨幣の価値は毎年2%ずつ下がりますので、借金の相対的な価値も同じ割合で減ってゆくことになります。仮に今後10年にわたって毎年2%ずつ物価が上がってゆけばどうでしょう、物価の上昇は複利的に効いてきますから、むこう10年の累計では1.02×1.02×1.02・・・すなわち約1.22倍にモノの価値が上がることになります、逆にお金の相対的な価値は22%減価しますから、結果的に10年後の借金1000兆円の重みは、現在の感覚でいえば820兆円ほどに減ってくれるわけです。

インフレを起こせば実質的に借金が減る・・・金を借りている方から見れば、これほどありがたいことはありませんが、その減った分はいったいどこにいってしまったのでしょう。

結論から言えば国民が広く浅く負担することになります。仮に皆さんが今300万円のタンス預金を持っていたとしましょうか、このお金は10年後も確かに300万円なのですが、10年後にタンスから引っ張り出して、例えば車を買おうとすればどうでしょう。先ほどのようにこの間モノの値段は毎年2%ずつ複利的に上がってゆくわけです、一年で2%、二年で2%×2%、三年経てば2%×2%×2%・・・・10年では1.02の10乗となり、元の値段に対して約22%のアップです。つまり今300万円で変える車は、10年後には366万円出さないと買えず、言い換えればこの間皆さんは66万円ソンをする計算です。

以上はすごく単純化した例ですが、大まかに申し上げてこの考え方で間違いありません。つまり借金の主体である政府が儲けた一方、同額を国民が負担する構図です。難しく言えば『国民から政府への富の移転』で、これはあたかも税金のように作用しますから、“インフレ税”と呼ばれることもあります。

では私たちがこのインフレ税を支払わなくて済む方法はあるのでしょうか。

インフレ税は、例えば住民税の均等割りのようにすべての国民が均等に負担したり、あるいは所得や消費の多寡に応じて課されるものではなく、保有する資産の多寡に応じて課されるという点で、一種の資産課税と考えてよいでしょう。ただしすべての資産に対して一律に課されないところがミソで、「特定の資産」のみが対象になるという特徴を持っています。

ではその「特定の資産」とは何でしょうか・・・現預金、年金や保険、債券など、インフレへの耐性の低い資産はすべて「特定の資産」になりうるでしょう。逆にいえばインフレにスライドする、あるいはインフレ率以上の上昇が予測できる金融商品で保有すれば、私たちはインフレ税の支払いを回避できるばかりでなく、逆にインフレを利用して資産を増やすこともできます。

このように国が最終的に目指すところを知っておくことはとても重要なことで、資産運用や防衛という観点で、いつもそこは意識しておきたいと思います。