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From the economic column I wrote in the past

財政破綻よりもっと起きそうなこと

2023年1月31日

わが国の財政は遠からず破綻する。

ここ20年ほど言われ続けてきました、たしかに日本の財政はこの間も悪化し続けており、財政破綻は現実味を増していると思います。数年前までなら「財政破綻は起きない、破綻を煽るのは財務省の陰謀だ」などと言う自称経済学者もたくさんいましたが、そのような人たちも最近は旗色が悪く、めっきり大人しくなってしまいました。

僕自身はこの商売をはじめ20年目に入ろうとしていますが、あのころと比べると、明らかに破綻の可能性は高くなっているように思います、でも一方で「そんな単純なものでもないだろう」という気もしています。私たちは財政破綻よりもっと先に起きる危機を心配するべきかもしれません。

すでにその兆候が昨年少しみえました。

円ドルレートの1ドル=150円を超えです、そもそもなぜあんな急に円安が起きたのでしょうか、直接的な理由は日銀による頑固なまでのゼロ金利政策でした、アメリカはじめ世界の中央銀行が高倍速の利上げを行うなか、日銀だけはゼロ金利に固執しました、昨年の円安は内外金利差の当然の帰結だったといえるでしょう。

でも私たちはここでもう一歩深く考えなくてはなりません。

そもそもなぜ日銀はアメリカやヨーロッパのように利上げができなかったのでしょうか、僕にはその答えの中に「財政破綻より先に起きる危機の芽」が隠れているような気がします。

ではあらためて、なぜ日銀は利上げできないのでしょうか。

僕は日本の経済の足腰が弱く、利上げに耐えられないと日銀がみているからだと思います。おそらくその危機意識は政府も共有しているはずです。つまり日銀と政府の暗黙の合意のもと、日本のゼロ金利は続いているということです。ではさらにもう一歩進めて、「日本経済の脆弱性」とはいったい何なのでしょう。

たとえば身近な住宅ローンを例に考えてみましょう。変動金利が0.5%なんていう数字は、ほとんどタダでおカネを借りられるということです、逆に言えばタダでおカネを借りられなければ国民は家を買えない状態にあるといえるでしょう。これは一例で、例えば企業の設備投資や研究開発など、日本を見渡せば、個人レベル、会社レベルにかかわらず、ありとあらゆる経済活動がゼロ金利によって、なんとか現状を維持できているのです。日本経済の脆弱性とはこのようなことだと思います。

ではなぜこんなサブい状態に陥ったのでしょうか。

突き詰めて言えば、やはりどうしても最後にここに行き着かざるをえません、それはこの30年ほどの間に日本の会社の競争力が落ちてしまったからだと思います。

競争力が落ちているから儲からない⇒儲からないから給料を増やせないし工場の設備も更新できない、思い切った研究開発への投資ができない⇒それを下支えするためにゼロ金利を続けざるを得ない⇒金利を上げられないから円が売られる・・・。

こうして円安要因はこの30年少しずつに蓄積されていましたが、昨年起きた世界的な利上げによって、一気に顕在化したに過ぎないと僕は思います。

これが僕が考える昨年の円安のしくみです。

でもよく考えると不思議です、ほんの20年前まで日本の心配事は円安ではなく、円高でした。僕が新卒で入社してからの20年ほどの間、日本のメーカーはいつも円高におびえていたものです。なのに今私たちの心配事は円高ではなく円安に変ってしまいました、いったいこの20年ほどの間に何が起きてしまったのでしょう。

たしかに少子化や高齢化の影響は大きいと思います。でもそれだけが理由だとは思えません、なぜなら少子化、高齢化は先進国共通の現象だからです。おそらくこれ以外に日本固有の問題があるはずです。

ではその「日本固有の問題」とはいったい何でしょう。

僕は二つあると思います。

まずは会社の硬直的な人事制度です。年功序列、終身雇用、定期的な転勤慣習、春にある一斉の賃金交渉と定期昇給、こんな日本固有の制度は徐々に薄れつつありますが、それでもいまだに会社の競争力をそぐ大きな要因であることは間違いありません、年齢にかかわらず有能な人材を登用する仕組みを早く造らなければ、世界の才能を集めることはできません。会社は人なり。優れた人材を世界から集めない限り国際競争には勝てません。

二つ目に挙げておきたいのは、それこそゼロ金利や財政拡大に代表される「甘やかし」です。

ゼロ金利というぬるま湯が20年近くも続いた結果、会社も従業員もすっかりハングリー精神を失ったように見えます。一人一人は決して怠けているつもりはないのですが、国際競争は相対的なガンバリで優劣が決まります、僕自身も含め、この20年というもの、例えばお隣の韓国や中国の人たち、あるいはアメリカ人たちと比べ、より努力をしてきたかと聞かれると、自信をもってYesと答えられないのではないでしょうか。

一方でもしこの20年、政府や日銀が、この「甘やかし路線」を早々に放棄し、厳格な財政政策や、市場に甘くない金融政策に転換していたらどうだったでしょうか、たしかに多くの会社は市場から退出していたかもしれませんし、そこで働く従業員も、一時的には苦しい思いをしたに違いありません、でも長い目で見れば有能な人材の流動化を通し、日本の会社は競争力を維持できた可能性が高いと思います。

アメリカでは2000年のITバブルで多くのIT企業が倒産しましたが、その人材はグーグルのような新興企業に転職し、今のアメリカ経済を支えています。今またメタやアマゾン、グーグルなど大手テック企業の業績が悪化し、それぞれ大規模解雇のまっ最中ですが、人材の流動化によって数年後に新しい産業が興ることになるでしょう。

さてここからはこれからのお話しです。

では私たち日本人も、上に挙げた「日本固有の問題」を解消し、再び競争力を高めることができるでしょうか。

僕はあまり期待していません。会社の人事制度や給与体系は徐々に変わりつつありますが、どう考えても一朝一夕にゆきそうもありません、そしてこの間も彼我の差は広がるばかりです。日銀の利上げは長い目で見れば日本の成長力を高める政策ですが、今の日銀の路線を見れば現実味はありません。日本政府の過剰な財政出動に至っては、ほとんど正常化不能だと思います。

ではこの状態がさらに20年続いたとしたらどうでしょう。

日本企業の競争力の低下⇒会社の収益停滞⇒お給料の停滞⇒経済の停滞⇒税収の停滞⇒財政悪化⇒財政破綻

という最悪のケースに至る可能性もあると思いますが、このコースはよほど急激に経済の収縮が進んだ場合で、実際にはレアなケースだと思います。それより私たちが今心配すべきなのは、

日本企業の競争力の低下⇒会社の収益停滞⇒お給料の停滞⇒経済の停滞⇒税収の停滞⇒ゼロ金利の継続⇒円安⇒高インフレ

というシナリオだと思います。

インフレが進むと政府の債務の実質的な価値はインフレ分だけ減りますから、政府にとっても悪いお話しではありません、僕はこっちのほうがより現実味があると思うのです。

昨年の1ドル=151円でいったん円安は止まり、あしもとで1ドル=130円まで戻していますが、これはアメリカの利上げ停止を織り込んだもので、いわば外的要因によるものです。目先さらに円高は進む可能性はあると思いますが、考えてみれば上のように「日本固有の問題」は何ら解消していないばかりか、まったく解消のめども立っていません。

相場はいつも材料を求めて動きます、足元ではアメリカの利上げ停止という材料に反応して円高に振れていますが、いずれ相場は新しい材料を探し始めるでしょう。

上で挙げた「日本固有の問題」が次の材料になるかはわかりません。が、長い目で見れば、いずれ円が売られる大きな材料であることは間違いないでしょう。

たしかに財政破綻は怖いシナリオですが、それよりもっと現実味のあるシナリオは円安とインフレだと思います、そのような観点からも資産の質的、地理的分散は欠かせません。

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