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Looking for valuable coins

インドコイン通史-5

2024年5月31日

今月もまたインドのコインについて語りたいと思います、ここまで4回にわたりクシャン朝、グプタ朝、中世ヒンドゥー諸国、ムガールのコインと進めてきましたが、今回は1800年から1900年代初頭まで、イギリス東インド会社およびイギリス植民地時代のコインです。

イギリス東インド会社時代のコイン、ウィリアム4世時代

イギリスによるインドへの進出は、ポルトガルやオランダより遅れましたが、1600年代、1700年代と徐々にインドの地方政治に深入りし、1830年代にはインド全土をその影響下におさめました、イギリスのインド統治はイギリス本国ではなく、その別動隊ともいえる東インド会社が担いました。

イギリス東インド会社は1834年ごろまでには、ほぼインド全土を支配下に置きましたが、それ以降、以下のような独自様式のコインを発行し始めます。

金貨
2モハール
1モハール

銀貨
1ルピー
1/2ルピー
1/4ルピー

下の写真は1835年に発行された1モハール金貨の通常貨です、オモテはイギリスの王様ウィリアム4世で、ウラにはヤシの木とインドライオンが描かれています、いまインドライオンは絶滅を危惧されていますが、当時インドライオンはさほど珍しくなかったのかもしれませんね。

(イギリス東インド会社1835年のモハール/ヘリテージ・オークションのサイトより)


リストライクと通常貨

上の写真は通常貨ですが、この銘柄にはプルーフ貨もあります。

以下はそのプルーフ貨の写真です。ご存じのようにプルーフ貨は贈呈などの目的で念入りに作られたコインで、発行数もごくわずかで値も張ります。

ただしイギリス東インド会社のプルーフ貨には少し注意が必要です、インドのコインに詳しい人ならご存じだと思いますが、大半のプルーフ貨は後世に発行されたリストライク貨(再鋳貨)でオリジナル貨ではありません。

このあたりの経緯について体系的に説明された文献をほとんど僕は見たことはありませんが、インドコイン専門書(The Uninform Coinage of India/SPINKS社)によると、「この時代のインドコインのリストライクは、アメリカで1950年代半ば以降に始まった、同国ではこのシリーズへの関心が高まり、数人のアメリカ人コインディーラーがこれを始めた」「ルピー(のプルーフ貨)は非常に人気があり、イギリスのオークション以外では見つけることができなかったため、(プルーフ貨のリストライクには)大きな需要があった」と説明されています。

おそらく下のコイン(1835年銘のモハールのリストライク・プルーフ)も、随分と後の時代、おそらくは戦後のアメリカで作られたコインではないかと思います。

(イギリス東インド会社1835年のリストライク・プルーフ貨のモハール/ヘリテージ・オークションのサイトより)

リストライクといってもかなりの人気コインで、未流通クラスがオークションにでてくると、20,000ドルほどの値が付きます、総支払額ベースでは400万円を超えます。

一般的にプルーフ貨は通常貨より値が張りますが、この銘柄に関しては少し事情が異なります。この銘柄のオリジナル・プルーフ貨は激レアの博物館級です、そのため上記のようにリストライク・プルーフ貨が後世発行されました。そんな事情もあってリストライクのプルーフ貨より、むしろ通常貨のほうが高値を付ける傾向にあるのです。

通常貨は滅多に出てきませんが、昨年11月のヘリテージ・オークションにNGC-AU58が出てきて、ハンマープライス12,000ドルで落札されました。MS63クラスなら、おそらく25,000ドルはするでしょう。

以上は1モハールのお話ですが、2モハールも状況は同じです。

2モハールの通常貨は1170枚しか発行されておらず、もちろん超激レアです。僕はここ数年目にしていませんが、5年ほど前にアメリカで開かれたオークションに、たしかNGC-AU55クラスが一枚出てきました、僕もセリに参加しましたが全く歯が立ちませんでした、ハンマープライスは70,000ドルほどだったように記憶しています。

これに対し2モハールのリストライク・プルーフ貨は結構出てきます、ここ数年のインドコイン人気で値を上げてきましたが、それでもPR63クラスなら、600-800万円ほどで落札可能です。

ウィリアム4世の銀貨ルピーも人気があります。

下のコインは1835年に発行された1ルピー銀貨です、上のモハールと同じく中型の銀貨で、オモテの図柄はモハールと同じくウィリアム4世ですが、ウラは簡略化されています。この銘柄はインドで初めて発行された「イギリス君主の肖像銀貨」で、残存数も少ないです。

ルピーは1840年以降に次の王様ビクトリアに肖像が変わりますが、この銘柄の出現頻度はビクトリアのルピーの1/10ほどにすぎず値も張ります、最近のオークション相場は未流通クラスで20万円ほどです。

(イギリス東インド会社1835年の1ルピー/「ときいろ」のサイトより)

なおモハールと同じく、このルピーにも「リストライク・プルーフ」問題があります。

市場に出てくるウィリアム4世のルピーのプルーフ貨は、そのほとんどが後世に作られたリストライク貨とお考え下さい。それでも結構人気が高く、未流通クラスなら40-50万円はいたします。オリジナルのプルーフ貨は滅多に出てきませんが、もしでてきたら未流通クラスで150万円を超えるでしょう。

すみません、今回は少なくともイギリス東インド会社時代は終えるつもりでしたが、ここで力が尽きました、次回はビクトリア時代の金貨・銀貨について書かせていただきます。

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