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Coins with potential upside

出口戦略の重要性

コインへの投資を資産運用と考えた場合、出口戦略は重要です。つまりいかに安く購入して、いかに高く売るかということです。もちろんみなさんの世代で出口に至らず、お子さんやお孫さんの世代にコレクションを承継するという考え方もあってよいでしょう。いえむしろ富裕層に属する方にとっては、コインは現預金や国債など紙の資産ではなく絶対的な価値がある現物資産として、次世代に引き継いでゆくにふさわしい投資対象ではないでしょうか。ただしだからといって出口を意識せずに投資するわけにはゆきません、私たちの子や孫が、遠い将来これらのコレクションを換金するときがくるわけですから・・・その時に「お父さん(あるいはおじいさん)は偉大な人だった」と感謝してもらえるよう、出口戦略はしっかりと考えておく必要があるでしょう。つまり長期的視点に立って、いかに割安感が強いコイン群を見つけるか、あるいはいかに将来性の高い投資領域を見つけるかということが重要なわけです。

19世紀後半のアンナンとタイ

そのような観点で世界のコイン市場を見渡してみるとどうでしょうか。投資対象として私はあきらかに割安感が強い国や地域があるように思います。

例えば19世紀後半のアンナンとタイです。アンナンは今のベトナムですが、19世紀のアンナンはフランスの支配を受けていました、フランスの貨幣文化と中国(清朝)の文字文化が混ざり合った結果、当時のアンナンでは漢字が刻まれた実に立派な金貨と銀貨が造られています。

アンナン(ベトナム)1847年~1883年に鋳造された7銭銀貨「嗣徳通宝」、極美品クラスの現在20万円~30万円で購入できます。

わが国同様、王様の肖像は描かれていませんが、当時の年号が大きく漢字で書かれています、銀貨の最高額面は7銭で、重さ27グラムほどもあるヨーロッパ規格の大型コインです。私の印象では、この銀貨は年々目にする機会が減っているようです。現在の相場はEF程度の好状態のもので20万円-30万円程度といったところですが、想定される残存枚数の割には、どうも相場が安すぎるように感じます。ベトナムを含む東南アジアはいまだ若年層が多く、これからも経済的な発展とともにまだまだ富裕化が進む可能性が高い地域です、ベトナムはじめ東南アジアのコインが、投資対象として正当に評価される時はそう遠くはないでしょう。なおこの銀貨はもともと流通用ではなく、贈呈用に造られたものでした。もらった側はそれを誇るため、コインの上下に穴をあけて首からぶら下げる習慣があったようです。そのような経緯もあり、このコインには上下に穴が開いたものが多くみられます、一般にこのようなコインは“瑕疵あり”とみなされ、相場も穴ナシに比べ半値から1/3程度になってしまいます、収集の際にはお気を付けください。

投資対象として銀貨よりさらに有望なのは金貨でしょう、金貨も銀貨と同じデザインですが、こちらはわずかな枚数しか残されておりません。第二次世界大戦のあとフランスは仏領インドシナを放棄しましたが、そのときアンナンの金貨を大量に持ち出し、その大半がフランス国内で溶解されたてしまったといわれています。そのため現存するアンナン金貨は、フランス人の持ち出しから逃れられたラッキーなコインたちだけというわけです。銀貨も目にする機会が減ってきましたが、金貨の方はよりその傾向が顕著で、国内のオークションを見渡してみても、一年に数点ほどしか目にすることはありません。価格の方も急速に上昇しつつありますが、それでも一枚当たり穴ナシの極美品クラスで500-650万円程度が現在の相場です。穴アリのコインを投資対象にするのは賛成できませんが、穴の開いていないものであれば美品(VF)クラスでも将来は有望でしょう。ご参考までに同時代の中国の大型金貨の価格は、すでに1000万円以上いたします。わが国の同時代(明治3年すなわち1870年)に発行された旧20円金貨も、状態の良いものなら軽く800万円を超えてまいります。残存枚数の点でアンナンの金貨が、これら同時期のアジア金貨に比べ、投資の対象としてそん色があるとは思えません。いかにも評価不足感が強いといってよいのではないでしょうか。

アンナン(ベトナム)1847年~1883年に鋳造された7銭金貨、極美品クラスの現在の相場は500万円から650万円ほど

名品コインに挙げさせていただいたタイの19世紀コインも有望だと思っています。1864年に造られた「ラーマ4世生誕60周年金貨セット」はわずか7セットしか造られませんでしたが、同じ図柄の銀貨バージョンが同時期に造られています、金貨はすでに極めて高額で入手困難ですが、銀貨バージョンなら十分まだ手が届きます。例えば1864年発行の4バーツ(鄭明通宝)の現在の相場は、比較的状態の良い極美品(EF)クラスでも300万円前後で手に入れることができますし、その下の2バーツ以下ならシリーズ完集しても、100万円程度に収まるでしょう。2014年に起きたクーデター以降、タイの経済は勢いがありませんが、ここのところ政情も安定化に向かい、経済も緩やかな回復軌道に乗りつつあるといえるでしょう。一般にコイン相場は、その国の経済発展の度合いに応じた価格をつけることが多く、そのような観点でタイのコインは今後有望ではないかと私は思います。

タイ、鄭明通宝4バーツ大型金貨、極美品クラスで現在の相場は300万円ほど、明らかに評価不足・・・

1500年代から1700年代の神聖ローマ

続いて挙げたいのは1500年代から1700年代の神聖ローマ帝国です。

資産運用の対象として見た場合、まず注目しておきたいのはターレルです。ターレルは当時一般に流通していた大型の銀貨です。当時の神聖ローマ帝国は、多くの侯国から構成されており、さらにそれら諸侯国ごと通貨の製造を神聖ローマ皇帝から認められていました。結果的に諸侯が独自のターレルを発行し、その種類は膨大な数になったわけです。今でも例えば17世紀の世界コインカタログを開きますと、なんとその半分ほどがドイツ(当時の神聖ローマ帝国)のコインに分類されるという不思議なことになっています。ターレル銀貨の現在の相場は、例えば未使用(UNC)クラスでも、概ね30万円ほどで買えますし、美品(VF)クラスですとその額はわずか数万円にすぎません。これはこのような残存枚数の多さによると考えてよいでしょう。コインのつくりは精巧ですし、描かれた皇帝の肖像は素晴らしく、まったくみていると飽きませんが、資産運用の対象としてみると話は別です。使用痕の全くない素晴らしい未使用コインを除き、まずこの1ターレルを私はお勧めしません。一方でこの時代のコインとして私が魅力を感じるのは、2ターレルです。2ターレルは流通用に造られた1ターレルと違い、主に贈呈用や大口決済用に造られたものです。したがって2ターレル以上になると状態が良いものが目立ちます。重量は60グラム近くありますので、手にしたときの重量感も抜群です。資産運用の対象として見た場合、その残存枚数も魅力になります。正確な統計を目にしたことはありませんが、私の印象では、例えばコイン商の店頭やオークションなどで目にする機会は、1ターレル20枚に対し、2ターレルはせいぜい1枚程度にすぎません。残存枚数ベースでいえば、1ターレル1000枚に対し、2ターレルは1枚程度かもしれません。一方で現在の2ターレル銀貨の相場はどうでしょうか、例えば17世紀のルドルフ2世(在位1576年-1612年)治下で発行された2ターレルがありますが、このコインの価格は極美品(EF)クラスでも30万円ほどにすぎません。残存枚数を考慮したうえで両社を比べれば、2ターレルの割安感が際立っています。資産運用の対象として、十分投資に値するコイン群ではないかと私は思います。なお3ターレル以上の銀貨もありますが、こちらはサイズがやたら大きく、保管場所という点でやや難があるかもしれません。

神聖ローマ帝国、1604年鋳造の2ターレルの大型銀貨、肖像はルドルフ2世。
極美品程度の現在の相場は30万円前後、未使用品であれば70~100万円はします。

この時代の金貨も魅力的です。

この時代の金貨の単位はダカットです、一般には1ダカットから10ダカットまでが投資の対象になりますが、最高額面は100ダカットまであります。ただ10ダカットを超えるコインは残存数が極めて少なく、一枚で立派な財産になるでしょう。1ダカットから10ダカットまで、予算に応じて対象を選ぶことができますが、例えば皆さんが1000万円のご予算をお持ちの場合はどうでしょう・・・1ダカットと2ダカットは残存数が多く、例えば美品から極美品クラスのコインなら、1ダカットで20万円前後、2ダカットでも50万円程度と比較的少額で購入できます。一方で10ダカットはあまり数が残っておらず、銘柄にもよりますが、せいぜい残存枚数は200枚程度ではないでしょうか。当然価格も高く、極美品(EF)クラスで1000万円を超えてしまいます。さてここで一つの選択肢が生まれます、2ダカットの金貨を20枚買うべきか、それとも10ダカットを1枚買うべきか・・・このような選択肢です。私はよくこのような質問をお客さんから受けますが、この場合迷わず1000万円の10ダカットを1枚お買いくださいとアドバイスするようにしています。投資の世界では複利曲線というグラフがありますが、私はコインでもこの考えは使えると考えています。

例えば下の図をご覧ください、この図は年間2%の割合で複利運用する場合と、10%ずつ複利で運用する場合の価値の変動を示したものです。

複利曲線

複利曲線
  • 2%で運用する場合
  • 10%で運用する場合

運用を始めて数年のうちは、両者に大きな開きは見られませんが、その後はどうでしょうか。期間の経過とともに両者の額の開きは加速度的に大きくなってゆくことが分かります。私はこれと同じことがコインの世界でも起きていると思います、例えば希少性の低い誰でも持っているようなコインは年間の上昇率が2%、これに対し世界に数枚しかないような希少性の高いコインは、毎年10%ずつ値上がるといたします。最初の数年は両社の価格差はさほどありませんが、時間の経過とともに価格差は広がり、例えば20年後には数倍の差になっている可能性が高いといってよいでしょう。この原則はコインの状態にも当てはまります、例えば先ほどの2ターレルですが、極美品(EF)クラスのコインであれば、さほど珍しくはありませんし、価格も先ほど申しましたように30万円もあれば買えてしまいます。これに対して未使用(UNC)クラスになればどうでしょうか、いくら贈呈用に造られたといっても、いまから400年ほど前に造られたコインです、多少の使用感はあって当然で、言い換えれば全く使用感のない未使用状態のコインは極めて希少性が高いといえるでしょう。このような状態の素晴らしい2ターレルは80万円以上の高値がついても不思議ではありません。現在の両者の価格差は50万円ですが、月日の経過とともに、この価格差はさらに大きくなる可能性が高いといってよいでしょう。

少し長くなってしまいましたが、このような理由から私は2ダカット20枚より、10ダカット1枚をお選びになることをお勧めいたします。

さてその10ダカットです、さきほど申しましたように残存枚数が限られており。現在の相場は1000万円以上と高額ですが、私がコイン収集を始めた30年ほど前までは、わずか100万円以下で買えたようです。これはある大手コイン商の方に伺った話ですが、その方がプラハの銀行に出向いたところ、フェルディナンド2世(在位1619年-1637年)の10ダカットがトレーいっぱいに並べられており、1枚90万円程度の価格を提示されたそうです。フェルディナンド2世の10ダカットは比較的残存枚数も多く、10ダカットの中では低額なコインですが、それでも現在の相場は500万円~600万円ほどです。価格が上がったこともさることながら、「一体あんなにたくさんあった10ダカットは、どこにいってしまったんだろう・・・」とその方は首をかしげていらっしゃいました。一度収集家の手に収まってしまうと、なかなか市場に出ない好例ではないかと思います。きっと希少なコインの価格は、このようにして上がってゆくのでしょう。

神聖ローマ、1675年レオポルド1世統治下の10ダカット金貨、未使用品クラスの現在の相場は3000万円前後

5ダカットも魅力的です、重量は10ダカットの半分しかないのですが、私が惹かれるのは残存枚数の少なさです、先ほどの1ダカットと2ダカットは流通を目的に造られたコインですが、5ダカットや10ダカットは贈呈用に造られたものです。贈呈用として5ダカットは中途半端と考えられたのでしょうか、不思議と残っていません。先ほどの10ダカットの残存数は一般的な銘柄で200枚程と申し上げましたが、5ダカットの方は多くて100枚程度、銘柄によっては20枚程度しか残っていないと考えられています。価格は極美品(EF)クラスで400万円~700万円程度と10ダカットに比べた安く、ねらい目としては面白いでしょう。

エリア別収集として、最後に私がお勧めするのは1700年代から1800年初頭までの、スペインおよびその植民地で発行された金貨です。

1700年代から1800年初頭までのスペインおよび中南米

当時のスペインは新興のイギリスやオランダの圧力を受け、徐々に衰退傾向にありました。が、コインに関していえば1700年代から1800年初頭にかけ、大変魅力的な大型の金貨を残しています。例えばフェリペ5世(在位1700年-1746年)の時代に造られた8エスクード金貨です。この金貨はスペインで初めて造られた、王様の肖像が描かれたコインです、重量は約27グラム、直径は約38ミリで当時のヨーロッパ規格の大型金貨といってよいでしょう。

スペインで1729年に鋳造された8エスクード金貨、肖像は当時のスペイン王フェリペ5世、スペイン初の肖像コイン、現在の価格は極美品クラスで100万円程度。

私が不思議に思うのはこのコインの価格です。このコインはフェリペ5世の後継者達、例えばカルロス3世や4世時代に造られた8スクード金貨に比べ、市場で見る機会は圧倒的に少ないのですが、現在の相場は極美品(EF)クラスでも100万円以下で購入できます。これに対して他国の同時代のコインはどうでしょうか。イギリスのコインをみてみますと、例えばジョージ2世(在位1727年-1760年)ギニー金貨の相場は、極美品(EF)クラスで500万円を下りません。私にはこのフェリペ5世の8エスクードは、いかにも割安感が漂っているように思えるのです。

イギリス、ジョージ2世1741年鋳造の5ギニー金貨、現在の相場は極美品クラスで500万円~600万円

フェリペ5世に続くフェルディナンド6世(在位1746年-1759年)の8エスクードも、割安感があると思います。このコインは先ほどのフェリペ5世の8エスクードに比べると、やや多く残されているように感じますが、それでも決してありふれたコインとは言えません、現在の相場は極美品(EF)クラスでも60万円程度ですが、この金貨も同時代のイギリスの5ギニーに比べると、割安感が強いといってよいでしょう。フェルディナンド6世以降、カルロス3世(在位1759年-1788年)、カルロス4世(在位1788年-1808年)と続きますが、この時代の8エスクードにも割安感があります。ただし残念ながらこの時代のコインは大量に残されており、その点には注意が必要です。現在の相場は極美品(EF)クラスで30万円前後と、この時代の大型金貨の中では最も安く買えるコインではなかと思いますが、その一因は残存枚数の多さにあるといってよいでしょう。皆さんがカルロス3世、4世の8エスクードに投資されるなら、少なくとも準未使用(AU)クラス、できれば未使用(UNC)クラスのコインをお選びいただきたいと思います。ご購入の目標価格は準未使用(AU)クラスで40-50万円、未使用(UNC)クラスで60万円前後とお考え下さい。

メキシコ1791年、カルロス4世の8エスクード金貨、通常タイプ。現在の相場は極美品クラスで20万円~25万円ほど

カルロス3世、4世のコインをお集めになるなら、バラエティの収集も面白いでしょう。例えばカルロス3世の8セククードには、先ほどの「名品コイン」でご紹介した「ラットフェイス」と呼ばれるバラエティがあります、このコインのカルロス3世の肖像は、通常のコインと比べ顔が平坦に描かれているため、「ラットフェイス」と呼ばれています。

ペルーの8エスクード金貨、1765年鋳造、「ラットフェイス」と呼ばれる希少タイプ、現在の相場は極美品で300万円ほど

残存枚数も少なく高価なコインではありますが、それでも同時代にイギリスで造られた5ギニーと同程度の価格にとどまりますので、今後の価格上昇に期待してよいでしょう。あるいは当時のスペインの植民地で造られた8エスクードにもレアなコインがあります、スペインで造られたものか、当時の新大陸(南北アメリカ大陸)で造られたものか、一見しただけでは区別がつきにくいのですが、ミントマークによって見分けることはできます。ミントマークというのは、コインに描かれた鋳造所を示すマークのことです。例えばスペイン本国のマドリッドで鋳造されたコインには、Mの文字の上に王冠が乗っかったマークが描かれていますし、植民地のメキシコシティーで鋳造されたものには、Mの上に○が乗っかったマークがあります。これらミントマークや年号別に完全収集すれば、それだけで見事なコレクションになるでしょう。そこに上記のような希少バラエティを加えれば、資産価値という点でも申し分ありません。