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Looking for valuable coins

プラチナについて考えてみる

2025年7月28日

僕はもう何年も前からプラチナに注目してきました、毎年のように年頭の相場見通でプラチナを推奨してきたつもりです。

あまりに長い間プラチナを推奨し続けたため、いつしかオオカミ少年になってしまい、だれも僕の話に耳を傾けなくなりました。僕自身もなかば自分の見通しに自信を持てなくなってしまっていたのです。

でも今年ばかりは違いました。

下のグラフは直近一年間のプラチナ価格(1オンス当たりドル建て)ですが、ご覧のように4月から急騰し足元では1400ドル台です。年初時点は900ドルの前半でしたので、ここまでで60%ほどの異常な高騰です。

(プラチナの先物価格1年間の推移、Kitcoサイトより転載)

ではもっと遡ればどうでしょう。

下のグラフは過去5年間、続いて過去20年間のグラフです。

(プラチナの先物価格5年間の推移、Kitcoサイトより転載)

(プラチナの先物価格20年間の推移、Kitcoサイトより転載)

この3つのグラフから私たちはいくつかのことを知ることができますし、それは今後の相場予想に役立つと思います。

3つのグラフからわかること

  1. 現在の水準1オンス=1400ドルは2014年以来の高水準にある
  2. 2014年から2024年の10年間はおおむね800-1200ドルの間で推移してきた
  3. 今年4月の急騰は2007年以来の上昇率だった
  4. 過去を振り返るとプラチナは短期のうちに大きく変動することがある、たとえば2008年(リーマン・ショック直後)には2100ドル台から800ドル台まで下げた、これほど急な下げは金(Gold)には見られない
  5. 逆に短期間のうちに急騰することもある、今年4月から6月までの70%だけでなく、過去振り返ると2007年の後半は半年で1200ドル⇒2000ドルまで70%近く上がったこともあった、これも金には見られない特徴だった

4と5のようにプラチナは金に比べて値動きが激しいのですが、一方で2のように2014年以来の10年間をみると、その特徴が全く現れていないことがわかります。

私たちはこの現象をどう解釈すべきなのでしょう、次はこの点について考えてみたいと思います。

本来値動きが激しいプラチナが、なぜ10年間上にも下にも動かなかったのか

この問題は結構根深いと思います。

一言で言えばヨーロッパ、とくにドイツの自動車メーカーによるEV(電気自動車)への大転換が大きかったと思います。言い換えればここ10年というもの、プラチナは常に下向きの圧力(注)にさらされ続けたといえるでしょう。

注)EVはガソリン車やHVと違ってプラチナを使用しません、なのでEVが普及するとプラチナは売られます

当時トヨタはじめ日本の自動車メーカーはHV(ハイブリッド車)で圧倒的な技術を持っており、これに対してヨーロッパの自動車メーカーは危機感を持っていました。トヨタの初代プリウスは1997年の発売でしたから、2010年代では日本車とヨーロッパ社のHV技術は相当開いていたはずです。いまさらHVで追いつけるはずはなく、このことはフォルクスワーゲンによるディーゼルエンジン車の排ガス偽装(注)とは無縁ではないはずです。

注)2015年にドイツの有力メーカーであるフォルクスワーゲンは、得意とするディーゼルエンジン車の排ガス量を偽装して公表しました、おそらくその動機は、日本メーカーが得意とするHVに対抗するためだったと僕は思っています。

不正がバレた同社だけでなく、これはヨーロッパの自動車メーカー全体の問題だったといえるでしょう。「日本車をどうやればたたけるか」、すでにディ-ゼルエンジン車を失ったかれらの答えはEVへの傾斜でした。HVでは勝てないがEVならまだ間に合うと考えたのでしょう。かれらは政府を巻き込んでEVの拡大を進めたというのが真相だったと僕は思います。

結果的にこの行動が中国車(BYDを中心とした)を招き入れることになったのですが、そのお話はいずれまた・・・。

概ねうえのような経緯で2015年を境に世界はEV化に向かって暴走し始めたのですが、それはプラチナの相場にマイナスの影響を与え続けました。ガソリン車はもちろんエンジンで動きますが、HVもまたエンジンを併用します。これに対してEVはエンジンを使いませんので、触媒としてのプラチナは不要になるわけです。

特にヨーロッパは2035年以降エンジン車(ガソリン車とEV)を全面禁止する方針を決めていましたので、これが実行されればプラチナの需要は激減します、なにしろプラチナ需要の40%以上はエンジン車の触媒用途(2023年現在)でしたから。

このようなEV化の流れが止まったのは2023年でした。

日本車をたたいて中国車を呼び込んでしまった愚を悟ったのでしょう、EUは「2035年のガソリン車(HV含む)の全面禁止」を撤回しましたし、ヨーロッパの有力メーカーもEV路線の見直しを進めました。

このようなエンジン車(=ガソリン車とHVの合計)の再評価は、プラチナの価格に影響を与えないはずはありません。

今年4月以降のプラチナ急騰には、このような「EV暴走の反動」が影響していると思います。プラチナ市場の各レポートもこのような「反EV」の影響を見込んでおり、たとえばWPTIC(=World Platinum Investment Council)は2029年までの自動車産業におけるプラチナ需要を、年あたり1.4%の減少にとどまると修正しました(2025年1月)。

自動車以外の需要はどうか

ここまでながながと自動車についてみてきましたが、それ以外の需要についても少し見ておきましょう、プラチナといえばひと昔前まで指輪やネックレスでした、それだけプラチナは価値があったのです。

それが昨今はすっかりと金(Gold)に地位を奪われた観があります、特に中国ではその傾向が顕著です。以下は金価格の20年グラフですが、2015年あたりに金とプラチナ価格は逆転し、それ以降、金とプラチナの価格差は広がるばかりです。ちなみに2015年はフォルクスワーゲンによる排ガス偽装が表面化した年で、そこから世界的なEV化が進みました。

(プラチナの先物価格20年間の推移、Let’s Goldサイトより転載)

これくらい価格差が出ると、「金の代わりにプラチナを買おう」という人が出てきて不思議はありません、この動きは実際に見られ、2025年1-3月の四半期を見ると「投資用の地金・コイン需要」は前年同期比で2.4倍になった(注)とのことです。宝飾需要も旺盛で、特に中国で2025年1-3月四半期の売れ行きは、前年同期に比べ26%増えた(注)とのことです。

注)2025年5月23日および5月28日付けの日本経済新聞より

前記のようにWPTICはEV需要を年あたり1.4%の減少と見込んでいますが、同社は投資や宝飾需要の増加でその減少分を相殺し、差し引き2029年まで、年あたり平均0.2%のペースで需要が増え続けるとみています。

供給はどうか

以上、プラチナを需要面から見てきましたが、供給面もみておきましょう。数年前にもこの問題を指摘したことがありますが、プラチナの供給は徐々に難しくなってきました、地表近くの鉱脈はあらかた掘りつくされており、今では平均的な鉱山の採掘コストは900-1000ドル程度と言われています、これでよく末端価格800-1200ドルで販売できたと思いますが、中間マージンを考えると足元の1400ドルですら採算ラインを割れているんじゃないでしょうか。

地上在庫をみても見通しはかなりタイトです。

WPTICによれば2029年まで需要が供給を上回り、その不足ぶんを地上にある在庫で補ってくとしています、同社によれば2022年時点で155トンほどあった地上在庫は毎年減ってゆき、このままでは2029年中に底をつくと考えています。下のグラフをご参照ください。

(プラチナの地上在庫の推移、WPICサイトより転載)

今後の相場について

以上プラチナの今後を需要と供給から見てきました、整理すると

  • 需要は徐々に拡大
  • 供給は徐々に減少
  • 地上在庫は5年後に底をつく

こんな感じです、これを見るとプラチナ価格はまだ上がりそうに見えます、特に金との比較感からプラチナの現物への需要が高まるという考えは説得力があります。

ではどこまで上がるのでしょうか。

一点注意しておきたいのは「中央銀行はプラチナを買わない」という点です。近年の金価格上昇の一因は中央銀行による購入にありますが、中銀は金を買ってもおそらくプラチナを買うことは無いでしょう。なにより市場が小さすぎて自らの投資で市場をゆがめてしまうからです。

プラチナと金のもう一つの違いは「金には産業用途が(ほとんど)無いが、プラチナの70%以上は産業用途だ」という点です、したがってプラチナの価格は世界の景気やEVの販売動向に大きな影響を受ける点に注意が必要です、言い換えればあまり上がり過ぎると、ほかの金属への代替が進み相場下落の一因になりうるということです。

以上のような点をふまえつつ、あえて数年後の相場を予想するなら、一つの目安として2011年につけた史上最高値1800ドルが目標になると思います、逆に言えばその水準までは特に大きな節目はありません。

まずは1800ドル程度を目指すことになると思いますが、そこから先は僕にはよくわかりません。2015年以前に当たり前だったプラチナ>金になっても不思議ではありません、なにしろ投機的な行動は理屈とは無縁ですし、慣性の法則から自由になればそのあとの動きは速いものです。そのあたり市場が小さく値動きが激しいプラチナの特性が出る場面があるかもしれません。つまり「下げが早いのがプラチナだ」ということです。

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