価値あるコインを求めてLooking for valuable coins
紙幣と金、そして金貨
2020年7月16日
僕はときどき皆さんからこんな質問をいただきます。
「金と金貨、どっちが儲かりますか?」
すこし遠回りになるかもしれませんが、
今回は上記のテーマで書いてみたいと思います。
僕がこの事務所を作ったころ、
金の価格はグラムあたり1500円弱でした。
注)2004年の平易金価格=1472円/グラム
田中貴金属サイトより
そういえば当時1キロのバーが150万円で買えた記憶があります、
それが今ではグラム当たり6900円ほど、
1キロのバーなら手数料込みで690万円にもなります。
よく考えてみれば不思議な気もします。
日本ではよく「失われた20年」などといわれ、
ここ20年ほどモノの値段はほとんど動いていません。
にもかかわらず上記のように金の価格は、
この16年だけをみても5倍近くにもなっているのです。
この現象はいわゆる「資産インフレ」というヤツで、
「紙幣の量」と「実物資産の量」のバランスが崩れることによって、
生じているように僕にはみえます。
中央銀行の量的緩和政策によって「紙幣の量」は増える一方ですが、
地下から掘り出される「金の量」は紙幣ほどには増えていません。
ですから紙幣の相対的な価値が薄まるのは、
自然な成り行きだといえるでしょう。
ではこの間、
金貨はどのような値動きをしたでしょうか。
そしてもし金と金貨が異なる値動きをしたならば、
その要因はどこにあるのでしょう。
まず金貨は金と違っていろんな銘柄があります、
ですから銘柄の選択によって違った結果が出ることを
忘れてはなりません。
そのような点も踏まえ、
今回は誰もが知っている代表的な金貨を、
いくつか例にとって考えてみたいと思います。
まずは地金型金貨として、
誰もが知っているメイプルリーフ金貨です。
このコインは一応金貨のかたちをしていますが希少価値はありません、
ですから実質的には金ではなく金の地金です。
カナダのメイプルリーフ金貨
- 20年前の価格:約35,000円
- 現在:約227,000円
- 20年前比:約6.5倍
注)いずれも税込み小売価格、20年前は年間平均
上記のようにメイプルリーフは地金ですので、
これがあらゆる金貨の基準となります。
では例えば皆さんよくご存じの、
フランスで19世紀に発行されたナポレオン100フラン金貨は、
同じ期間どのように動いたでしょう。
コインは金と違って年号や状態などによって値付けが違いますが、
そこまで話し出すとそれだけでメルマガ一回分くらいになってしまいます、
なのでここでは平均的な年号でかつ平均的な状態のコインという前提で、
大づかみな金額を紹介させていただきます。
ナポレオン100フラン金貨
- 20年前の価格:約40,000円
- 現在:300,000円前後
- 20年前比:約7.5倍
確かにメープルリーフ金貨に比べると「20年前比」は
約6.5倍から約7.5倍に上がっていますが、
その差はさほど大きくはありません。
これは「ナポレオン100フラン」が、
今でも地金に近いコインとしてみられており、
逆に言えば希少性がほとんど認められていないことを示しています。
ただし上記でも申しましたように、
これはあくまで一般的な年号でかつ並程度の状態の100フランです。
たとえばMS64以上の高状態のコインや1865年や1868年銘などは、
一枚100万円を超えてきますので、その点はお断りしておきます。
さて次は皆さんお好きな「雲上の女神」、
オーストリアで1908年に発行された100コロナ金貨です。
この金貨はいまでこそ100万円を超える値が付きますが、
僕がこの事務所を作ったころは、
世界でもっとも安く手に入る金貨でした。
オーストリア1908年フランツ・ヨーゼフ100コロナ金貨
- 20年前の価格:約40,000円
- 現在:800,000円前後
- 20年前比:約20倍
最後にもう一枚、
イギリスで1935年に発行されたジョージ6世の5ポンド金貨です。
この金貨も上記2銘柄と同様、
つい最近まで地金型金貨とみられていたものです。
イギリス1937年、ジョージ6世5ポンド金貨
- 20年前の価格:約48,000円(地金価格は38,000円なので希少価値は10,000円です)
- 現在:800,000円前後
- 20年前比:約17倍
上記3枚に共通するのは、
この間の地金価格の上昇率である約6.5倍を上回って値を上げている点です。
つまりこの20年間押しなべて、
金貨は金価格の上昇率を上回ってきたといえるでしょう。
なぜでしょう。
アンティーク・コインの価格構造をみますと、
「地金価格+希少価値」に分解することができます。
つまりすべてのコインは、
まず金や銀といった金属としての価値がベースにあり、
それに希少価値が加わって相場が出来上がっているといえるでしょう。
ではさきほどのジョージ6世の5ポンドを例にとりますと、
どのように分解できるのでしょうか。
上記のように
・金貨の価格=地金価格+希少価値
です。
まず地金価格のほうはどうでしょう。
このコインの重量は39.94グラム、金品位91.7%ですから、
地金としての現在の価格は約25.3万円と計算できます。
注)約6,900円×39.94グラム×91.7≒252,700円
ではもう一つの要素である希少価値は、
どう計算できるでしょう。
上記のように
・金貨の価値=地金価格+希少価値
ですので、
地金価値が25.3万円なら希少価値は54.7万円です。
注)希少価値=80万円-25.3万円=54.7万円
以上を踏まえ、
あらためて直近20年のジョージ6世5ポンドの価格変動を分解しますと、
以下のように整理できます。
地金価格の上昇(メイプルリーフ事例より)
・35,000円⇒227,000円(約6.5倍)
希少価値の上昇
・10,000円⇒547,000円(54.7倍)
確かに地金価格も6.5倍ほどに値上がりしてしますが、
希少価値の上昇のほうが圧倒的に大きいことがわかります。
つまり過去20年間の値動きを見る限り、
その値上がりの大半は希少価値の上昇で説明することが
できるといえるでしょう。
そこで再び冒頭のご質問、
「金と金貨、どっちが儲かりますか」
です。
もちろん銘柄や状態などによって程度の差はありますが、
少なくとも過去20年を観る限り、金そのものの値上がりより、
希少価値の上昇のほうがよほど大きかったことがわかります。
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