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なぜ金は1万円を超えたのか

2023年8月29日

本日(2023年8月29日)、史上初めて円建ての金価格が1グラム=1万円を超えました。振り返れば今世紀の初め2001年あたり(黄色矢印)、グラムあたりの金価格は1000円ほどでした、ちょっと細かいですが以下グラフをご覧ください。

(円建て金価格1982年以降の長期グラフ:楽天証券サイトより転載)

それが今では1万円超えです。

きょうび、日本国内で買えるまともな金融商品の中では稀有な値上がりだったといえるでしょう。こんな急騰を目の当たりにすれば、その理由を考えないわけにはゆきません。

ではわずか20年ちょっとの間で、なぜ円建ての金は10倍以上にも値上がりしたのでしょう、今回はこの点について考えながら、今後の投資のヒントを探ってみたいと思います。

なぜこの20年ちょっとで円建ての金価格は10倍になったのか

まずはドル円相場です、世界の金はドルで値付けされており、円建ての金はそれを単純に円で換算したものにすぎません、したがって円がドルに対して安くなれば円建ての金価格は値上がりします。

このようなお話をしますと、皆さんは円建て金価格の上昇の主な要因は、円安にあるとお考えかもしれませんが、その点について検証したいと思います。

まずはこの期間のドル円レートを振り返っておきましょう。

(ドル円レート1971年以降の長期グラフ:ファイナンシャルスター社サイトより転載)

このグラフは1971年から現在までのドル円レートです、1985年のプラザ合意を起点に急速に円高に振れ、確かに1995年から2010年あたりまでは超円高時代でした。では金が安かった2000年と今のレートを比べるとどうでしょう。以下ご覧ください。

  • 2000年の年初:1ドル≒101円
  • 2023年の年初:1ドル≒131円

注)いずれもTTM

確かに円建て金価格の上昇が始まった2000年と現在を比べると、ずいぶんと円安になってはいます、仮にこの間ドル建て金価格が同じでも、この為替効果によって円建ての金価格は30%ほど値上がりしているはずです(注)

注)131円÷101円≒129.7%

ところがこの間の円建て金価格の値上がりは、そんな甘いものではなく冒頭のように10倍近くにもなっているのです。

より正確に言うならば

  • 2000年の1時点の円建て金価格:1,013円
  • 本日2023年8月29日時点の円建て金価格:10,000円

したがってこの間の上昇率は9.87倍です。

注)10,000円÷1,013円≒9.87

そして上記のように、そのうち0.3(=30%)が為替効果です。

このことから案外と為替の効果が小さいことがわかりますもし金そのものの価格が変わっていなければ、現在の円建て金価格は1,320円ほどにすぎません。

注)1,013円×1.3≒1,320円

いかえれば、この1,320円と10,000円の差額、8,680円分がドル建ての金価格の値上がり分だとわかります。

この現実をどう理解するか

以上を要約すると下のようになります。

  1. 2000年時点と現在を比べ、円建て金価格は1,000円から10,000万円になった
  2. 上昇幅にして約9,000円のうち300円は円安によるもの
  3. 残り8700円は金そのものの価格(ドル建て金価格)の上昇によるもの

意外と円安効果(2)が小さいことがわかります、では(3)とは一体なんなのでしょう。

今回の焦点はこの部分です、ドルは確かにアメリカの通貨ですが、世界中どこへいっても通用する基軸通貨でもあります、言い換えれば現代のおカネの代表です一方で金(Gold)はそれそのものに価値がある現物資産の代表だといえるでしょう。

つまり金(Gold)とドルの関係は、現物資産とおカネの関係の象徴だといえるでしょう。

ではそれを前提に、2000年以降の23年間、ドル建て金価格が8.6倍にもなった理由を再び考えてみましょう。

この問いかけに対する最も説得力のある答えは、「政府が発行するおカネ(ここでは紙幣いっておきましょう)の価値の薄まり」で、この間の金価格の上昇はドル紙幣の価値低下を象徴する出来事だと思います。

振り返れば、この推測を裏付ける材料はいくつもあります。

特に2008年に起きたリーマン・ショック以降、アメリカはじめ主要国の中央銀行は、大量の紙幣を印刷し市場にばらまいてきました。以下はFRBの資産総額の推移です、FRBはおおむねこのペースで市場にドル紙幣を供給してきたといってよいでしょう。つまり金(Gold)の価値が高まったのではなく、ドル紙幣の価値が薄まったということです。

(FRB資産総額の推移(2008年以降):FRBサイトより転載)

FRBは昨年末以降、市場のドル紙幣を回収しつつありますが、「拡大は急激に、回収はゆっくりと」です、そうこうしているうちに次の危機がやってくるでしょう。

ドルの価値低下を示す材料は他にもあります。

たとえば各国中央銀行による金のカイです、下のグラフは世界の中央銀行が保有する金の残高(重量ベース)です、2021年ですから少し古いデータですが、これ以降もさらに買い増しており、昨年(2022年)の買い越し額は1082トンと過去最高を記録しています。

(世界の中央銀行が保有する金の残高:日経オンライン2021年12/16記事よりコピペ)

このように中央銀行は金の持ち高を増やしていますが、一方でドルの保有を減らしているデータもあります。

以下は世界各国の中央銀行が保有する外貨準備の通貨別内訳ですが、ごらんのようにドルの比率は下がりつつあります、上のグラフと合わせてみれば、中央銀行ですらドル紙幣ではなく、金(Gold)への信頼感を高めつつあるとわかります。そしてその背景にはドルの大量供給による希薄化の懸念があるはずです。

(世界が保有する外貨準備、通貨内訳:日経オンライン2021年12/16記事よりコピペ)

ここまで見てきたように、この20年ほどの「円建て金価格の上昇」は、円がドルに対して安くなったことに加え、FRBよる紙幣の大量供給によって起きる、ドル紙幣に対する信頼性の低下が原因の一つだということがわかります。

円建て金の1万円超えは、それを象徴する出来事だといえるでしょう。

仮に上の推測が正しければどうでしょう。

いまのところFRBだけでなく、世界の中央銀行がとりうる金融政策は2つしかありません、一つは低金利政策で、もうひとつは紙幣の大量供給(QE)です。コロナ以降、この2つの政策はとられておらず、むしろ利上げと紙幣の回収(QT)政策がとられていますが、いずれ危機はやってきます。

繰り返しやってくる金融危機に対し、当局は紙幣の大量印刷で対応せざるをえず、これはドルをはじめとした紙幣の長期的な希薄化を招くでしょう。

いいかえれば金の価格は上昇し続けるということです。このあたりを念頭に私たちは資産の分散を心掛けるべきではないでしょうか、簡単に言えば一定額の実物資産保有です。

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