過去に書いた経済コラムよりFrom the economic column I wrote in the past
いつか来た道
2017年2月
4年前総理大臣になった安倍さんの経済政策の目玉は「3本の矢」で、その中身は金融緩和、財政出動、そして構造改革でした。
この3つの政策のうち唯一機能したのは金融緩和で、それを主導したのは安倍さんが任命した日銀総裁、黒田さんでした。
黒田さんの政策は劇的な効果があり、日本経済は超円高から解放され企業は史上最高益を更新中、税収もそれなりに増えました。ただ残念なのはインフレ目標の未達で、これを達成しない限り日本経済が本格的に再生したとは言えません。悲願のプライマリーバランスの達成も程遠く、今の日本経済にとっての最重要課題はインフレ率2%の達成である・・・どうも政治の世界ではこのような空気に支配されつつあるのではないでしょうか。
これだけ金融緩和を行っても実現できなかったインフレ誘導を、いったいどのような経路で達成しようというのでしょうか。
この点に関して最近急激に勢いを増してきたのは「財政出動によって無理やりにでもインフレを誘発すべき」という考え方で、ノーベル経済学賞の受賞者含め、著名な経済学者がさかんに唱える理論です。
この理論は別に目新しくもなく、
- 国が借金をして公共投資をバンバンやれば経済活動が刺激される
- その結果経済は乗数的に拡大し、インフレを誘発する
- であればインフレ率2%に達するまで財政を拡大すればいい
ということにすぎません。当初から安倍さんの経済顧問的な立場にいる浜田宏一さんも、「目からうろこが落ちた」とこの理論にご執心な様子ですが。浜田さんといえば日銀による流動性供給を理論的に支えた方で、つい数年前までは自信満々に「日銀がQEを拡大すれば必ずインフレ率2%は達成できる」とおっしゃっていたものです。さすがに最近は「超低金利下ではQEは効かない」などと失敗を認められましたが・・・果たして「間違っていました」で済むのでしょうか。お立場をよくわきまえ政策を提言してほしいものです。さらに問題はその「QE理論」を撤回し、今度は「財政拡大によってインフレ誘導を進めるべきだ」などと言い始めた点です。今度間違えばいったいこの国はどうなるのでしょう・・・
よく考えてみれば今から20年ほど前、同じことをやって失敗した経験を我が国は持っています。小渕政権時代のお話しですが、当時野村証券に在籍したリチャード・クーや植草一秀氏にそそのかされ、小渕さんは財政拡大路線にのめりこみ、一時は自身を「日本一の借金王」などと称したりしていたものです。その財政拡大の結果、一時的に経済は引っ張り上げられるものの、効果が出尽くせばそれでおしまい。残ったのは日本中に建てられた記念塔のような公共施設と巨額の借金だけでした。それ以降、我が国が「失われた20年」と呼ばれるデフレ時代に入ったのは皆さんご承知の通りです。
今の状態となんとよく似ていることでしょうか・・・リチャード・クーと植草一秀が浜田宏一とシムズ(注)になっただけで、当時と比べ理論的な進歩はありません。
注)クリストファー・シムズ、アメリカのプリンストン大学教授でノーベル経済学賞受賞者。今の日本ような低金利下では金融政策は効かない、このような状況下では財政出動によるインフレ誘導が有効だというのが「シムズ理論」。
さてさて日本の政治家は、またまたこの口当たりの良い劇薬を服用することになるのでしょうか。もしそのようなことが起きればこの20年、我が国の政治家は全く学習していないことになりますし、なにより今後の財政赤字の拡大が心配です。
ただ悪いことばかりではありません、その結果として我が国財政が維持不能なところまで悪化すればどうでしょう、よく言われるように財政破たん懸念から超インフレが起き、その結果、強制的に財政赤字がリセットされるという最悪のシナリオも、現実味を帯びてくることになるでしょう。庶民の生活はさておき我が国財政にとっては、むしろそれこそが最善のシナリオなのかもしれませんね、そこまで考えて彼らが財政拡大理論を唱えているとすれば、なかなかの慧眼ということにはなるでしょう。
僕自身は「構造改革派」で、国民一人一人の生産性を上げることが賃金の上昇につながり、その結果としての消費拡大を目指すべきだと思います。インフレは結果であり、いいかえれば自然に起きる現象ではないでしょうか。時間はかかると思いますが、これが日本経済の進むべき王道ではないかと思っています。
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