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From the economic column I wrote in the past

日銀の出口はあるのか

2017年8月

黒田さんが日銀の総裁に就任してからすでに4年以上経ちました。が、いまだわが国の消費者物価の上昇は0.5%(生鮮食品を除く、7月実績)に過ぎず、日銀が目標にする2%には程遠い水準です、黒田日銀は過去一度だけ自らの政策(すなわち量的質的緩和)を総括したことがありますが、私たち国民から見ればとうてい納得できるのものではありませんでした・・・そりゃそうです、自らの政策の失敗を本音で語る日銀など僕は見たことがありません。

今後を見渡しても、今までの日銀(や政府)の政策の延長線上に「物価上昇率2%」があるとは思えず、やはりこのあたりで日銀は政策を総括し、あわせて今後の方向性を修正する時期にきているのではないかと思います。

そもそも2%インフレは適切な目標だったのか

最近時々耳にするのは、そもそも「2%」というターゲット自体が誤りで、本来は1%程度に目標設定するべきだったという考えです。2%という数字は、黒田さんが就任時に持ち出したものですが、それ以前に日銀はインフレの目安として1%という数字を設定していました。にもかかわらず、なぜ2%という高い目標を設定したのでしょうか。

理由は二つあると思います。

一つ目はあえて高い数字を設定することにより、国民の心のなかに長年染みついたデフレマインドを払しょくするためです、つまりこれは「マインドに働きかける政策」で、そのためには高めの数字の設定が必要だと考えたのでしょう。

二つ目の理由は他国とのバランスです、当時多くの先進国がインフレ目標を設定していましたが、その大半は2%でした、そんななか日銀だけが例えば1%程度の低い目標を設定すればどうでしょう。デフレ国の通貨は買われますので、日本円は再び1ドル=80円を切ってしまうかもしれませんでした、これを避けたかったのではないかと思います。

ただしあれからすでに4年以上経過し、世界の経済環境はずいぶんと変わりました。例えば各国のインフレ目標ですが、僕がこの仕事を始めた13年前ごろ、世界の標準的なインフレ目標値は2%程度でした。あれからずいぶん時が経ち、すでに世界経済は低成長時代に入りました、日本特有の低体温症が先進国の共通した悩みになったといってよいでしょう。アメリカは近々QEの巻き戻し(すなわち「資産圧縮」)を始めそうですが、いまだに物価上昇率は1%代半ばに過ぎません。EUは周回遅れでやっとテーパリング(注)の準備を始めた段階ですが、インフレ率は1%前半にとどまります。

注)市場への資金放出の量を減らす段階、資金放出を完全に止め、しばらく放置した後、やっと「資産圧縮」を始めます

つまり2%などという高いインフレターゲットはすでに過去のもので、日銀だけではなく先進国全体でせいぜい1~1.5%程度が妥当な目標値になったといってよいでしょう。

実情に合わない2%ターゲットを設定した弊害がでているのではないか

上記のように円高を招く可能性もありますので、日銀だけを責めるわけにはゆきません。が、G7などでしょっちゅう顔を合わせているんだから、少なくとも日米欧の間でインフレ目標値を実情に合わせ、1%~1.5%程度に下げるという議論があってもよかったのではないかと思います。

実現不能な高いインフレ目標を設定することにより、日本だけでなくアメリカもEUも同様の問題を抱えるに至りました。「行きはよいよい帰りは怖い」です、高すぎるインフレ目標を目指した結果、日米欧の中央銀行のバランスシートは膨れ上がり、リーマン・ショック前に比べ、3中銀合わせると4倍を超えるマネーが市場に滞留したままの状態にあります。実際には再び中央銀行に当座預金として還流する部分もありますが、それも合わせ刷りすぎた紙幣はいずれ回収しなくてはなりません。

アメリカではFRBが9月にも資産圧縮(注)を始める可能性が高いですが、よほど慎重に進めなければなりません、なぜなら保有国債を市場で売り出せば市場でだぶつき、国債の相場急落を招く可能性があるからです、国債の暴落は金利の急騰と同義です。

注)かつてFRBは市場から国債(や住宅ローン担保証券)を購入することによって、市場にドルを供給してきました、資産圧縮はその逆です、手元に積みあがった米国債等を市場で売りさばくことによって、市場からドルを吸収するプロセスに入ります、これを緩やかに進めることにより、FRBはバランスシートを正常化する必要があります。

わが国はアメリカからみれば2周ほど遅れていますが、いずれは資産圧縮のプロセスに入らなければなりません、単にQEを停止しただけなら市場に滞留する円紙幣の量は、(当座預金として日銀に還流するマネーを含め)巨額のまま維持されることになり、いずれそれが株式市場や不動産市場に流れ込み、またバブルを招くからです。

日本、アメリカ、EUの3極を比べると、中央銀行が市場に供給ししてきたマネーの絶対量に大きな差はありませんが、経済の規模と比べると、日本の場合かなり危ない状態にあるといえるでしょう、以下ご参考までに3極中央銀行の現在の資産規模と対GDP比です。

  • 日本 約500兆円(約92%)
  • アメリカ 約500兆円(約24%)
  • EU 約540兆円(約30%)

注)( )内は対GDP比。1ドル=110円、1ユーロ129円で計算

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