過去に書いた経済コラムよりFrom the economic column I wrote in the past
中国は覇権を奪えるか
2019年5月
5月の連休明け以降、世界の株価は不安定ですね。今年(2019年)4月時点では合意に近づいているとみられていた、米中の通商問題が後戻りしてしまったようです。
それにしても中国は粘り強いですね、したたかというべきでしょうか・・・1980年代の日米貿易摩擦の時に、日本政府が採った対応とえらい違いです。
でも一方でいま中国が苦境に立たされていることも間違いないと思います、もともと経済の成長率が鈍化していたことに加え、おりわるく習近平さん肝いりの「シャドーバンキングつぶし」の最中でもありました。そのうえ高齢化も加わっていますので以前のような高成長もムリでしょう。
おそらく米中貿易摩擦が本格化する前の中国の基本的な考えは、以下のようなものではなかったでしょうか。
- 「シャドーバンキングつぶし」によって短期的な過熱感を抑える
- 上記によって想定以上の景気下振れが起きた場合は、適切な景気拡大策をとる
- 中期的な経済成長率の鈍化は容認する、2025年あたりで5%程度を想定か・・
- 一方で「中国製造2025」や外国企業からの技術パクリなどによって、長期的に世界No1の技術立国を目指す
その最終的な目標はアメリカに代わって世界の覇権を握ることだと思いますが、アメリカはそんなお人よしではありません。
アメリカが勝つか、それとも中国が100年の夢を実現してアメリカから覇権を奪うのか・・おそらく今起きている摩擦の本質はここにあると思います。
ではこの覇権争いの結末は、いったいどのような形になるのでしょう。
この点について考える場合、私たちは中国が何を軸にして、世界の覇権を得ようとしているのか知る必要があると思います。僕は中国の覇権構想の核心は製造業ではないかと思います、その長期構想に従って中国は「補助金」「外資の技術強制移転」「ハッキングによる技術盗用」などを着々と進めてきたといえるでしょう、しかも怖いことにその構想の半ばはすでに達成しています。そう考えると中国もまたすごい国だと思います、このような長期的な構想力を持ち、なおかつそれを実践できる国がほかにあるでしょうか・・・。
ただし多くの方と同じく、僕も今の時点ではアメリカが圧倒的に有利だと思います、それはそうですよね、中国経済がいくら大きくなったといっても、GDPを見ると中国はアメリカの2/3ほどしかなく、ここに至る蓄積もちがいますので、大人と子供のけんかに似ています。アメリカは作戦面でも巧妙で、日本やイギリスを巻き込んで中国包囲網を作り上げようとしています、そしてすでにZTEモデル(注)は、ファーウエイからほかの中国企業へ広がりつつあります。
注)ZTEモデル:昨年アメリカが中国のZTE社に対する半導体の販売を禁止し、同社の業績は急速に悪化しました、アメリカ政府による同様の措置をZTEモデルと呼ぶことにしました。
もしこのZTEモデルによって、中国の先端企業の成長が止まるようなことがあればどうでしょうか、中国がもくろむ技術覇権構想は崩壊し、「中国100年の夢」は文字通り夢になるでしょう。
では中国は完全に失敗してしまったのでしょうか。僕はそうは思いません、確かに状況は厳しいですがまだやりようはあると思います。
それは時間を味方につけるというやり方で、この土俵に持ち込めば、4年に一度選挙があるアメリカより有利です。今にして思うと鄧小平さんはお利口さんでしたね。有名な「韜光養晦」というヤツで、日本でいえば「能ある鷹は爪隠す」です。自分たちが弱いうちはひたすら姿勢を低くし、その間に少ずつ実力を蓄えるべきだという考えです。実際に鄧小平さん以降の中国は着々と国力を高めてきましたが、それを支えてきたのはこの「韜光養晦」だったと思います。
「中国は共産主義で、たしかに我々とは違う考えを持ってはいるが、国が豊かになれば、いずれ欧米のように民主化するに違いない・・・」そんな見方が、一昔前のアメリカでは支配的でした。「技術のパクリも企業への補助金も、特許の侵害も問題だが、まあしばらくは大目に見てやろう、いずれ民主化すれば是正されるのだから」、きっとこんなふうに考えてきたのだと思います。
もしあと10年、中国がこの「韜光養晦」を続けていればどうだったでしょう。おそらくアメリカが気付いた時にはすでに遅く、中国による覇権は現実味を帯びていたのではないでしょうか。
その意味で特に尖閣問題、南シナ海問題、それに続くAIIB設立や一帯一路など、一連ともいえる中国の急速な膨張政策は、あきらかに失敗だったと思います。なぜならアメリカの警戒心を高めてしまったからです、その結果起きたのが、例えば対中関税引き上げや、ファーウエイつぶしです。もしいま中国が正面からアメリカとぶつかる姿勢を見せるなら、アメリカはさらに戦線を拡大することになるでしょう。すでに監視カメラ、鉄道などの分野です中国企業を締め出し始めていますが、このような戦線の拡大はどうみても中国にとって不利です。
ただし上記のように、中国に全く選択肢がないかといえばそうとも思えません。
中国には臥薪嘗胆という言葉がありますが、もう一度「韜光養晦」路線に戻るという考え方はあってよいのではないでしょうか。つまりメンツを捨てアメリカとの正面衝突を避け、ひたすら時間稼ぎをするということです。その間に国内産業が地力をつければ、時間は中国に味方するはずです。
すでにEV用のモーターや自動運転技術、超小型モーター、太陽電池など中国企業は世界に通用する競争力を身に着けています、工作機械やロボットなど先端分野でも有力な企業が育ちつつあります。あと5年ほども時間を稼げれば、世界の中核技術を握ることができるはずです、その時点でZTEモデルのターゲットにしようにも、中国企業なしではアメリカ経済は立ち行かなくなっているでしょう。
ですから中国はアメリカと妥協し時間を稼ぐ戦術をとるのではないでしょうか。
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