過去に書いた経済コラムよりFrom the economic column I wrote in the past
長期的な円安トレンドに備える
2021年9月30日
振り返れば僕が子供のころは1ドル=360円でした。
海外旅行など一部のお金持ちの楽しみでしたし、海外から入ってくるものは大概の場合、舶来と呼ばれる高級品でした、そういえばバナナも高級品で病気になった時しか食べられませんでした。
為替相場が変動制になったのは1973年ですから僕がまだ12歳の時です、当時の僕は経済に全く興味がなく、円高によって家族にどんなことが起きたのか、父親の会社でどんなことが起きたのか、そして父親の収入がどのように変わったのか、母親が毎日買う食料品や日用品の価格がどんなふうに変わったのか、まったく記憶にありません。
僕が為替相場を身近な問題として考えるようになったのは大学を出て就職してからです、新卒で(今は亡き)三洋電機という関西の電機メーカーに就職したのですが、就職して数年後にドル円レートは1ドル=240円前後の定位置から、一気に1ドル=130円前後まで円高方向に進みました(下グラフ黒矢印)。
(ドル円レート1980年から2021年までグラフ:日銀サイトより)(縦軸は1ドルあたりの円貨、横軸は西暦)
今から思えば1ドル=130円なんて超円安ですが当時は超円高でした。急に進んだ円高によって高まった社内の危機感は相当なものでした。輸出売り上げが急に減り、会社の業績はみるみる悪化しました、本社部門でもコスト削減を大幅に進め、管理職以外の残業禁止、文房具類の購入禁止など、厳しいお触れが出たものです、そういえばコピー用紙の9割削減というのもありました、どうやって9割も削減したかというと帳票類の裏紙を使ったのです、その結果、コピー機がしょっちゅう根詰まりを起こし、それを修理するに四苦八苦し時間を浪費した記憶があります。
当然ながら製造の現場でも1円単位にコスト削減をやっていたと思います、まあそうやって日本の製造業は円高をしのぐため必死に努力をしたわけです。
でも頑張ってコストを削減して円高抵抗力をつけると、また競争力が高まって輸出が増える、その結果、貿易不均衡が拡大し円が買われ円高に・・・、それでも必死の努力で競争力を高め業績が回復すると、また貿易黒字が拡大し円が買われる・・・、おもえば僕の三洋電機時代、1980年代後半はこの繰り返しでした。
三洋に入社して5年目にソニーに転職しましたが、そのソニー時代でも、特に前半は円高との戦いが続きました、ただしソニーのやり方はもっとスマートで、コストカットではなく、魅力ある製品を作ることによって業績を拡大するというやり方でした。
このようにやり方は各社各様だったと思いますが、がんばって日本の製造業は円高と戦っていたわけです、ソニー時代の円高ピークは1994年ごろだったと思います、会社のエレベーターの中で、「1ドル82円まで行ったそうですよ」なんて、憂鬱な顔で先輩と話していたのを今でも憶えています。
このように円高は僕のような製造業の従業員にとっては常に憂鬱の種でした、製造業が稼ぎ出す利益によって支えられていた当時の日本全体にとっても、円高は悩みの種だったといえるでしょう。
あれからはや20年。
この間、日本の産業構造は随分と変わりましたし、日本の立ち位置も変わってしまいました。会社はすっかり魅力的な製品を世に出す力を失ってしまい、社員のお給料はこの20年ほとんど増えていません、給料が増えないので購買力が低下し延々とデフレが続いています、そして気が付けば日本の物価は世界の先進国の中でも最低レベルです。長らく続く円高を避けるため、有力な製造業は海外に拠点を移し、その結果、日本のメーカーの無国籍化が進みました、有力な会社ほどその傾向が強いといえるでしょう、「国内生産⇒海外へ輸出」というパターンはすでに過去のものになり、その結果、逆に円安が進んでも貿易収支の黒字は増えなくなりました。
長期の円安時代が始まる
むかしからデフレ国の通貨は高くなるとよく言われます、
その理由は以下の通りです。
たとえば10年前、日本でトヨタ車が100万円で売られており、同時期のアメリカでは1万ドルで売られていたとしましょう、なおその時点のドル円レートは1ドル=100円だったと致します。
その後の10年で日本の物価上昇率はゼロ、一方でアメリカではこの間20%物価が上がったとしましょう、日本では物価は上がっていませんので、今でもトヨタ車は100万円で売られているはずです、一方でアメリカではどうでしょう、この10年で物価は1.2倍になっているので、当時1万ドルだったトヨタ車は1.2万ドルになっているはずです。
購買力平価説によれば、このトヨタ車の日本価格100万円とアメリカ価格1.2万ドルが等価になるように為替は決まりますので、現在のドル円レートは
・1.2万ドル=100万円
であるはずです、
分かり易くするために両辺を1.2万で割ると
・1ドル≒83円
となります、
一方で10年前の為替レートが
・1ドル=100円
でしたから、この10年で100円から83円まで17円ほど円高が進んだことになります。
これが経済の教科書に書いている「購買力平価説」による為替レート変動の仕組みで、デフレの国である日本では通貨高(円高)が進むことになるのです。
一方で現実のドル円レートをみるとどうでしょう、上でご紹介した2000年-2021年のドル円レートグラフのように、日本ではこの20年というもの1ドル=100円を挟んだ動きで、まったく円高は進んでいません。
教科書通りならデフレによって円高が進んでいるはずなのに、実際には為替は動いていません。
私たちはこの事実をどう解釈すべきなのでしょう。
経済の教科書には、「1ドル=83円の円高になるべきだと」書いているにも関わらず、一向に円高になっていないのです。
僕は相対的に日本が貧困化しているからだと思います。
製造業の競争力の低下、相対的な給与の減少、有力な製造業の海外移転、少子化・高齢化による購買力の低下、財政悪化を懸念した家計資産の現預金比率高止まり・・・、さまざまな要因があると思いますが、それらすべてひっくるめて国力の衰退と総括すべきではないでしょうか。
簡単にいえばデフレで安くなったモノすら買えないくらい、私たちは貧しくなっており、それを為替相場が織り込んだということです。
ではこれからはどうなってゆくのでしょう、残念ながらこの傾向から抜け出すのは簡単ではないと思います、たしか先々月の本レポートでお話ししたと思いますが、私たちの社会が相対的に貧しくなった最大の原因は、企業がかつての競争力を失ってしまったからだと思います、1980年代、1990年代は半導体、電気機器、電子デバイス、素材、自動車など、世界有数の競争力を持った会社がいくつもありました、彼らは円高にめげずに良い製品を作り外貨を稼ぎました、そしてその一部を従業員に分配し社会全体が豊かになりました。豊かさの根本部分にある製造業の競争力が復活しない限り、私たちはこれからさらに貧困化に向かわざるをえません、為替レートはさらに円安方向に進むでしょう。
私たち個人に何ができるか
製造業の競争力を高めるのは政治の役割です、そこには期待したい気持ちはありますが、本音の部分ではあきらめ感が強いです、いっそのこと明治維新や戦後のように、すべてリセットして次の世代に任せてしまったほうが、よほど期待が持てるとすら僕は思います、もちろんその前にグレート・リセットを生き延びる資産構成にしておく必要がありますが・・・。
リセットを経ない、いわばソフトランディングを予測するならば、私たちの資産を、ゆっくりと進む円安に耐える構成に組み替えておく必要があると思います、つまり円建て資産を一定範囲にとどめおき、ドルを中心とした外貨建て資産のウエイトを引き上げるということです。
実物資産の保有も重要です、国内不動産は円安進行によって海外投資家がさらに買ってくると思います、ある意味でこれは国際相場への収れんです。特に資産性の高い優良物件はカイでしょう。貴金属やコイン、カラーストーンもいいでしょう、世界通貨の意味合いと実物資産の性格を併せ持っていますので。
株はできれば外国株、個別銘柄をみることができなければETFでもいいと思います、日本株なら先に申し上げた無国籍企業で独自の技術を持つ会社が候補です。
ひとそれぞれウエイトは違っていいと思いますが、これから長期の円安がやってくると覚悟し、日本貧困化の波に飲み込まれないようにしなくてはなりません。と僕は思っています。
単なる入札代行ではなく、このサイトの主催者である田中がコンサルさせて頂きます、
コイン初心者の方でも安心してご利用いただけます。