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From the economic column I wrote in the past

いやな円安の予感

2022年3月28日

ウクライナの情勢がどうなるかわかりませんが、もし和解が成って停戦できたとしても、ロシアへの経済制裁がソク解除になるとは思えません。なぜなら和解⇒ソク解除なら、侵攻のヤリドクになってしまうからです。このようなことから僕は一定期間、米欧日は経済制裁を続けざるをえないと思います。その結果、原油や天然ガス、小麦やニッケルなど、世界的な供給不足は続き、インフレはしばらく続くことになると思います。

日本に与える影響はどうでしょう。

この20年ほど、私たちはインフレではなくデフレに苦しんできましたし、日銀もこの間ずっと2%程度のインフレ目標を金融政策の軸に据えてきました。このようなことから皆さんは「むしろ今後インフレがやってくるなら、それはむしろいいことじゃないか」といわれるかもしれませんが、そんなことは決してありません。なぜならロシア発のインフレは供給不足に起因するインフレで、景気が良くて起きる、いわば需要サイドの要因でおきるインフレではないからです。簡単にいえば「給料が増えないのに、モノの価格だけが上がる悪いインフレ」です。

さらに厄介なのは「ロシア発の輸入品の価格上昇」によって、わが国の経常収支が悪化するという点です。

経常収支は貿易による収支(=「貿易収支」)だけではなく、サービスの収支や在外資産からの利息や配当などの収支(=「所得収支」)などひっくるめた収支、つまりその国が貿易や投資でどれだけ稼いだかを表します。

以下は1996年以降の経常収支(青色の折れ線)と貿易収支(えんじ色の棒グラフ)ですが、ご覧のように今年は貿易収支だけではなく、利子や配当、サービスなどひっくるめた経常収支レベルでも赤字が予想されており(青い折れ線)、これは1996年以来初めてのことです。


(日本銀行サイトより、青線=経常収支、エンジ棒=貿易収支)

経常収支の赤字は「国富の流出」です、短期で終わるならさほど問題はないのですが、長期化すると厄介です、なぜならば以下のような仕組みで循環的な円安につながりやすいからです。

経常赤字の拡大⇒輸入企業が輸入代金支払いのため外貨を購入⇒円を外貨に両替するニーズの拡大⇒円安、外貨高⇒円安によって円建て輸入額の拡大⇒経常赤字の拡大⇒輸入企業が輸入代金支払いのため外貨を購入⇒円を外貨に両替するニーズの拡大⇒円安、外貨高・・・・

振り返れば僕がサラリーマンをやっていた1980年代から1990年代にかけ、日本の悩みは常に経常黒字の増加でした。上とは逆に経常黒字の拡大によって円高が進み、その円高によって経常赤字が拡大するという循環でした。今は真逆の現象が起きていますので隔世の感があります、言い換えれば「日本の国力衰退の悪循環」といってもよいでしょう。

日本経済新聞と日本経済研究センターは共同で、円の理論値「日経均衡為替レート」を算出していますが、足元の経常赤字を反映して直近数値を計算したところ、円の理論値は1ドル=121円70銭となったそうです(注)、ちなみにこの理論値は昨年7-9月期時点では1ドル=105円40銭ほどでしたので、わずか半年で16円ほども円安方向に振れたことになります。

注)2022年3月30日、日本経済新聞の朝刊記事より

現在のドル円相場は1ドル=122円前後ですが、このレートを前提にすれば、おそらく今後の経常赤字は、直近データ1月の▲1.2兆円よりさらに悪化してゆく可能性が高いと思います、経常赤字の拡大が円安を呼び、円安によってさらに経常赤字が拡大するという、悪い循環はすでに始まっているといってよいでしょう。

(ドル円相場、過去1年間推移:楽天証券サイトより転載)

円安要因は他にもあります、たとえば今でも日銀は低金利政策を続けていますが、アメリカのFRBやイギリスのBOEはすでに利上げモードに入っています、内外の金融政策のタイムラグによって今後も円安が進みやすくなるでしょう。

もちろん円安の進行は悪いことばかりではありません。

日銀の黒田総裁がいうように、円安によって輸出型企業の収益が拡大し、当該企業の株価は上がりますし、賃金を引き上げる余地も高まります。また外国株、外貨預金、現物資産など在外資産を大量に保有する富裕層にとって、円安は必ずしも悪いことではありません。一方で日本にはそのような恩恵を受けられない人もたくさんいます。世界的規模で進むインフレと円安による二重の負の効果によって、日々私たちが消費する食品や日用品、ガソリンや電気・ガスなどの値上げはしばらく止まりそうもありません。

その結果、円安の恩恵を受けることができない大半の日本人は、徐々に相対的貧困化の道をたどることになるでしょう。

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