スマートフォン版に切り替える

From the economic column I wrote in the past

ドル円相場はどう動くか

2022年3月28日

黒田さんが日銀総裁に就任したのは2013年ですが、以来9年間も日銀はゼロ金利政策を続けてきました。これほど長くゼロ金利政策を続けていますが、物価は一向に上がりません。以下は1980年以降のインフレ率の推移ですが、ご覧のように1995年以降はほぼ物価は上がっていません、物価を上げるために金利を下げているのですが、経済は温まらず、賃金も上がっていません。

(日本のインフレ率の推移、1980年以降:「世界経済のネタ帳」サイトより転載)

でも足元を見れば少し状況に変化が見られます。

下のグラフは直近一年間のインフレ率グラフですが、ご覧のように徐々に水準を切り上げており、直近4月発表の2022年3月データでは1.2%まで上昇してきました。余談ですが僕は政府が公表する統計データに対して前々から不満があります、データのこまごまとした説明や注釈が多い割に、たとえば「○○年以降のグラフ」といった、大くくりの傾向を視覚的に示す資料が少なく僕はいつも不便しています。民間の会社が作ったグラフや海外の公的サイトの方がよほど分かり易く役に立ちます、そもそも統計局や日銀などは、国民に広くデータを提供するという意識がないといわざるをえません。こんなことだから国民が経済に無関心になってしまうのではないでしょうか。すみません、以上いつも不満に感じているこことでした。

(日本のインフレ率の推移、直近1年ぶん:「ヤフーファイナンス」サイトより転載)

(注:全国消費者物価指数/CPI、前年同月比)

ともあれ上のグラフを見る限り、日本の消費者物価もようやく上昇トレンドに乗ったと考えてよいのではないでしょうか。さらによく言われるように、昨年4月の携帯料金の引き下げによって、それ以降の消費者物価は常に1%ほど下向きの圧力がかかっているといわれています、5/20発表の4月度データから、この▲1%が剥落しますので、それだけで消費者物価指数は1%ほど自動的に上がる公算です。3月の物価の上昇が+1.2%なので、4月度データは+2.2%になる勘定です。

しかもそれだけではありません、下のグラフのように3月以降は急に円安が進みましたし、原油の価格も随分と上がりました、原油価格は足元で落ちついてきましたが、消費者物価に転嫁されるまで少し時差があります。

(ドル円レート、過去1年間推移:楽天証券サイトより転載)

(WTI原油価格、過去1年間推移:楽天証券サイトより転載)

次回の消費者物価の発表(4月度ぶん)は5/20前後ですが、上記のような点から考えて、おそらく物価の上昇率は2%を超える可能性が高いと思います。

さらに上記のように円安や商品相場の影響があり、そのあともさらに幾分の上昇傾向が続くのではないでしょうか。

日銀はどう動くか

ではその場合、日銀はどう動くのでしょうか。

冒頭のように黒田総裁にとって2%インフレは就任以来の悲願です、ゆるやかな物価の上昇を誘発して経済を成長軌道に戻すというのが、当時の安倍政権とのアコード(「合意」)だったといえるでしょう。黒田総裁の任期が切れる2023年に向け、日銀の「ゼロ金利政策解除」=「金融の正常化」は、黒田さん個人にとっても日銀にとっても、もちろん政府にとっても悲願といえるでしょう。

しかも足元では急速に円安が進んでおり、本音では黒田さんも政府もヤバイと感じているはずです、黒田さんは「円安は日本経済にとって全体的にはプラスに作用する」と言っていましたが、最近では少しトーンが変わった印象です、黒田さんもそろそろ円安を止めなければならないと考えているはずです。しかも夏には参院選があります、このまま円安が続き物価が上がると岸田さんにとってもマズいことになります。

そこに持ってきてです。

上記のようにインフレ率が目標値の2%を超えてくればどうでしょう、これに乗じてゼロ金利を解除しない手はありません、本来は今回のようなコスト・プッシュ型インフレ(注)は決して望まし形ではありませんが、それでも「インフレターゲット2%達成」という形だけは整います、しかも日米金利差縮小の見通しから、円安に歯止めが効くという副次的効果も期待できます。

注)望ましいインフレは、経済が拡大する中で消費者の購買力が上がり、自然と起きるインフレ(=「デマンド・プル型」)です。一方で今回のように世界的な商品相場の上昇や円安で起きるインフレを「コスト・プッシュ型」のインフレと呼びます。コスト・プッシュ型インフレは一般に賃金の上昇を伴わず、いわゆる「悪いインフレ」と考えられています。

ドル円相場への影響

では実際に上記のように日銀が政策変更(=ゼロ金利政策の解除)した場合、為替はどう動くでしょうか。

いうまでもありませんが、「日米金利差の縮小」というように、現状に対する巻き戻しが起き、為替も円高方向に動くでしょう。場合によっては実際に日銀がセロ金利解除しなくても、たとえば5/20に発表される消費者物価指数をみて、市場は円高に振れる可能性もあると思います。仮に5/20の数字が期待外れでも、6/20、7/20と経過する中で、日本のインフレ率も2%を超えざるを得ないと思います。

その後はどう動くか

ただし足元で起きた円安は、日米金利差だけで起きているわけではありません。1ドル=128円の水準で日本企業の稼ぐ力が復元するとは思えず、経常赤字が常態化する可能性すらあるのではないでしょうか。僕は長期で見ると為替相場は国力を反映すると思いますが、もしそうであるなら長期的な円安という見立てに変化はありません。

日銀のゼロ金利解除によって一時的に円高に振れたとしても、この根本的な円安要因が取り除かれない限り、いずれ円は売られることになるでしょう。わたしたちはその前提で粛々と通貨の分散を進めるべきではないでしょうか。

単なる入札代行ではなく、このサイトの主催者である田中がコンサルさせて頂きます、
コイン初心者の方でも安心してご利用いただけます。