過去に書いた経済コラムよりFrom the economic column I wrote in the past
ドル覇権の揺らぎと私たちのポートフォリオ
2023年4月30日
先日のメルマガでも書きましたが、アメリカの覇権は明らかに退潮していますし、それに伴って基軸通貨としてのドルの信頼も揺らぎつつあるように思います。端的な例として世界各国の中央銀行の行動をあげさせていただきます。
以下は1950年以降、昨年(2022年)に至るまで、世界の中央銀行による金(Gold)の買い越し額(緑棒)額と売り越し額(赤い棒)の推移です。
(世界の中央銀行による金の買い越し、売り越し額の推移:World Gold Councilデータ)
ご覧のように2010年以降、買い越しが続いていますが、昨年(2022年)の買い越し額は1100トンを超え、これは本統計でさかのぼれる1950年以来で最高です。
一方で残高ベースではどうなっているのでしょう、下の図は新興国の中央銀行による金保有額の推移です、図のうち黄色マルは2010年時点の比率、青いマルは2021年時点の比率です。上のグラフで各国による金の買い越しは明白ですが、下のグラフでそれが裏付けられた格好です、明らかに新興国中心に各国はドルから金へ重心を移しつつあることがわかります。
(新興国の中央銀行による金保有額の推移:日経電子版2021年12月6日記事より)
さらにグラフをもう一つ。
以下のグラフは世界の中央銀行が保有する外貨準備の通貨別構成比です(注)。ご覧のようにドルの比率は1999年時点の70%程度から、足元で60%以下まで下げています。これだけを見てもドルの存在感の低下をうかがえます。
注)この中には金(Gold)も含まれていると思います、金はグラフでは緑の棒(「その他」)に入っていると思います。
(世界の中央銀行が保有する外貨準備の通貨別構成比:IMFブログ2021年5月6日記事)
ではなぜ新興国を中心に、世界はドルから金へおカネを移しているのでしょうか。
僕は二つあると思います。
一つ目はアメリカ当局によるドル紙幣の大量印刷です、以下はFRB(アメリカの中央銀行に相当)のバランスシート(総資産額)の推移です、バランスシートの拡大量とドル紙幣の印刷量はほぼイコールの関係にあると考えてよいでしょう。ご覧のようにリーマン・ショック(2008年)以降は急速に拡大し、2008年時点の約8,800億ドル⇒足元の86,000億ドルまで、この15年で10倍以上に拡大しています。
(FRBバランスシートの推移:FRBサイトより)
急激なドル紙幣の散布に対し、新興国中心に警戒感が広がっているとみておくべきでしょう。つまりドルの希薄化へ懸念で、この点で私たち個人が持つ懸念となんら変わりません。
二つ目は政治的、あるいは安全保障上の観点からの資産分散です。
ロシアによるウクライナ侵略に対し、アメリカ政府はロシアが保有するドル資産を凍結しました、つまりロシアはドルの外貨準備を人質に取られたといってよいでしょう、新興国の多くは独裁的な政権であることが多く、制裁の対象になりやすいドルから金へ資金を移している面があると思います。
では、このまま行けばドルという通貨の近未来はいったいどうなってしまうのでしょう。そして私たちはそんな近未来に対してどう備えるべきなのでしょうか。
混沌の時代がやってくる
ドルという基軸通貨の今後を考える場合、なによりも大切なのはアメリカが覇権を維持できるかどうかだと思います。
一時2030年までに中国の経済力がアメリカを上回るといわれましたが、最近になってこの考えに対して否定的な見方が増えてきました、中国ではすでに人口の減少が始まっていますし、生産年齢人口に至っては2013年をピークに減少し続けています。少子高齢化は日本を上回るペースで進んでいますし、総人口でもすでにインドに抜かれたようです。
一方でつい最近まで国民に強要してきた一人っ子政策によって、人口ピラミッドはイビツに変形し、社会保険制度の整備が遅れたまま高齢化社会に突入しようとしています。日本はよく「課題先進国」などと揶揄されますが、おそらく近い将来、中国にその地位を奪われることになるでしょう。
(主要国の高齢化率推移:総務省サイトより)
上のグラフは主要国の高齢者比率の推移(2020年以降は予測)ですが、中国の高齢化速度は際立っています。日本もそうでしたが、国民の平均年齢と経済成長率の間には相関性があるように思います、急速に高齢化が進む中国が低成長時代を迎えるのは明らかで、同国がアメリカに代わって世界の覇権を握るとは考えにくいと思います。
ではインドはどうでしょう。
インドは多くの点で中国とは違いますが、一方でカースト制や社会資本の未整備問題など考えると順風満帆とはいきません、向こう数十年の間に世界の経済大国の一角を占めるのは間違いありませんが、アメリカにとって代わって世界の覇権国になるとは思えません。
このように考えてまいりますと、世界はアメリカを中心にしながらも、中国やインド、ヨーロッパなど拮抗する時代に入ってゆく可能性が高いと僕は思います、言い換えれば覇権が定まらず混沌とした時代への突入です。
この考えが正しければどうでしょう。
この場合、基軸通貨という意味でも混沌の時代に入ってゆくはずです。
世界の通貨はドルという基軸を失い、一方で通貨の大量発行時代は今後も続くでしょう。その結果、通貨全体への信頼性が薄まり、世界は通貨以外の新しい基軸を求めることになるでしょう。そのようなおカネの一部は、必然的に金(Gold)に流れるはずです。
このコラムの冒頭で世界の中央銀行が、金(Gold)を買っているというお話しをしましたが、これを言い換えれば中央銀行による資産の質的分散です。中央銀行だけでなく、すでに世界のアチコチで、お札に代わって金(Gold)を買う流れは始まっているのだと僕は思います。その結果が2000年以降の金高です。
ご参考までに下のグラフは1オンスあたりの金価格で、縦軸の単位はドルです。つまりこれはドルと金の交換レートです、2000年時点で300ドルと金1オンスを交換できたのに、今では2000ドル持っていかなくては金と交換できません。それだけドルをはじめとした紙のおカネの価値が薄まっているのだと思います。
(Goldスポット価格1オンスあたり、2000年から2023年:Kitcoサイトより)
おそらくこれから通貨混沌の時代に入ってゆくでしょう、通貨混沌の時代というのは、ドル基軸通貨の揺らぎと、紙のおカネ全体に対する信頼性の低下が同時に進む時代のことです。それに備え私たちも実物資産への移動を少しずつ進めておくべきだと僕は思います。
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