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From the economic column I wrote in the past

人気化する金と今後の見通し

2024年4月30日

このレポートでも何度か書いてきましたが、ここ数年、金の価格は上がりつつあります。本来アメリカの金利上昇やドル高は金の売り要因ですが、今のところ金価格は影響を受けていないように見えます。

下のグラフは楽天証券サイトからコピペした円建て金価格の長期グラフ(1975年以降)ですが、僕はこのグラフをみて思うことがあります。

(円建て1グラムあたりの金価格の推移:楽天証券サイトより転載)

僕がこの商売を始めて20年になりますが、当時1オンスのメイプルリーフ金貨が4万円台で買えたのを覚えています、1オンス=31グラムですから1500円×31グラム=46,500円という計算だったのでしょう。

当時僕は何枚か買いましたが、その価格になんの違和感もありませんでした、金の価格なんてそんなもんだと思います、1オンスの金貨が4万円だといわれれば「そうか」と思いますし、今のように40万円といわれればまた「そうか」です。

金は産業用途がほとんどありませんから、金が高くなって困る人はほとんどいません。株ならPERやPBRなど、債券なら利回りといった指標があり、それを目安に値ごろ感を知ることができますが、金の場合はそれもありません。

まあそんなことで金の価格は動きやすいのでしょう、でも逆にいえば、だからこそ金価格はその時々の経済を素直に反映しているともいえます。いわば金は経済を映し出す鏡のような存在なのかもしれません。

上のように、ここ20年で円建て金価格は10倍以上にもなりましたが、それにはそれなりの理由があるのだと僕は思います。

円建て金価格は、なぜ20年で10倍にもなったのか

ではなぜ円建て金価格はこの20年で10倍にもなったのでしょう。

この点に関してはいくつかに分解できると思います。

まずは金そのものの価格上昇です。そもそも金の価格とはいったいなんなのでしょう、上のように金そのものは産業用途がほとんどありません、にもかかわらず私たちは金が持ちたがるのは、金が持つ以下のような特徴や機能に無意識に引き寄せられているのだと思います。

  • 価値の保全機能
  • 換金の容易さ
  • 発行主体がなく、特定の国や団体の信頼性に依存しない点
  • 流通量がやたら増えない点

でもこれら金が持つ特徴についてよく考えてみると、これらは通貨の機能と似ています、教科書的に言えば通貨の機能は

  • 価値の保全機能
  • 価値の尺度
  • 価値の交換手段

ですが、この3点はいずれも上であげた金がもっている機能と一致しています、唯一異なる点があるとすれば、「金には発行体がおらず国や発行体の信頼性に依存しない」点でしょう。

上記のように考えてまいりますと、「金は無国籍通貨」「金は誰の負債でもない通貨」と呼ばれる理由がわかります。

では仮に金を無国籍通貨と位置付ければどうなるのでしょう。

金が一種の通貨であれば、円建ての金価格は「金という通貨」と「円という通貨」の交換レートであるという本質が見えてきます。つまりこの20年で、金という通貨に対する円の価値が1/10に切り下がってしまったということです。

異論を唱える人はたくさんいますが、僕は昔から「一国の通貨はその国の国力を反映する」と考える派です。

もしこの考えが正しければどうでしょう。

円と金の交換レート、言い換えれば円建て金価格の下落は、日本の経済力、もっといえば経済力に代表される国力衰退の投影です。

ただしこの20年で日本の国力が1/10になったわけではありません、なぜならドルやユーロなど、ほかの通貨の価値も金に対して下がっているからです。ご参考までに以下はドル建て金価格の推移ですが、ご覧のように、金はドル建て価格ですら20年で8倍ほどになっていることがわかります。

(ドル建て1オンスあたりの金価格の推移:楽天証券サイトより転載)

すべての通貨をドルで代表するのは少し無理がありますが、ドルが世界通貨である点を踏まえると、以下の考え方はさほど間違ってはいないでしょう。

つまり円を含む通貨全体でみても、無国籍通貨である金に対し、通貨の価値は1/8ほどまで弱くなってしまったということです。

以上まとめると、まず通貨全体が金に対して1/8ほどまで弱くなり、
円は(その弱くなった)通貨に対して80%ほど弱くなった結果、
円は金に対して1/10(注)の価値になってしまったと結論付けていいでしょう。

  • 1/8×80%=1/10

であれば、これから金価格はどう動くのか

ではこれから金の価格はどう動くのでしょう。

さきほど僕は「無国籍通貨である金に対し、通貨の価値は1/8ほどまで弱くなってしまった」と申し上げました。

ではいったいなぜこんなことが起きているのでしょう。

いくつか理由があると思いますが、いつも申し上げていますが最大の理由はドルやユーロ、円の刷りすぎだと思います。上のドル建て金価格グラフをみると、リーマン・ショックがあった2008年(赤矢印)から金価格は急騰していますが、このあたりから日米欧の中央銀行による紙幣大量印刷が始まりました。以下は3つの中央銀行のバランスシート規模の推移ですが、大まかに言ってこのペースでお札は増えていったといいでしょう。

(日米欧の中央銀行の総資産グラフ:日本経済新聞サイトより転載)

先ほど僕は金の価格について、「金の価格は、金と通貨の交換レート」だと言いました。これだけのペースでお札の量が増えますと、通貨価値の希薄化は起きて当然です。その結果、相対的な金の価格の上昇、つまり金の価格上昇もまた当然のなりゆきです。

ではいったいどこまで金は値上がりするのでしょう。

時間軸の取り方しだいでいかようにも表現できますが、もし日米欧の中央銀行が、リーマン・ショックが起きた2008年から現在までと同じペースでお札を発行し続ければ、むこう16年で通貨の価値は1/5に薄まります、その場合、金の相対的な価値は5倍になっても不思議はありません。

もちろん中央銀行が過去と同じ考えで金融政策を運営するとは限りません、金利の上げ下げと資金供給量の調整以外に、第3の主要金融政策を見つかる可能性だってあると思います。

でももし・・・、2008年以降と同じ政策をとり続けるならば、上記のような帰結も否定できないと僕は思います。

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