過去に書いた経済コラムよりFrom the economic column I wrote in the past
30年後の日本
2024年5月31日
今から30年前、いまの日本経済を予想できた人はいったいどれほどいたでしょうか。
当時(1994年)の日本経済は1989年のバブル崩壊から急降下中でしたが、まだまだバブルの余韻は残っていました。その後しばらくして山一証券や長銀など、大手金融機関が相次いで破綻しましたが、その先に30年にも及ぶ長期停滞が待っているなんて、だれも予想していなかったはずです。
バブルの反動で経済は一時的に収縮してはいるが、バブルの処理が済めば強い日本がまた戻ってくる・・・こんな感じで皆楽観していたと思います。
でも、その後の日本は長い衰退が続き、昨年GDPはドイツに抜かれて4位になりました。経済の国際競争力は下がる一方ですし、給与水準は主要国の中で最低ランクが定位置です、そういえば最近ノーベル賞受賞者も出ていませんし、大学の評価ランキングをみても寂しい限りです。
では次の30年を経たあと、いったい日本はどんな国になっているのでしょうか。紙数と時間の制限から細かいことは書けませんが、以下エッセンスだけ僕の想像を書かせていただきます。
会社と社員
僕は日本の会社は一定の競争力を維持できると思います、特に期待しているのは半導体関連や電子部品関連の会社です、半導体や電子部品などの分野は高い品質と精度が求められ、日本人の気質にあっていると思います。大きな投資の決断が求められる半導体の最終製品では、再び覇権を握れるとは思いませんが、半導体や電子部品の素材や製造装置、検査装置など、黒子の分野で日本は高い競争力を維持できていると思います。
一方で気になるのは自動車です、今はトヨタが頑張っていますが、EV化とソフト化が進行するなかで、今の競争力を維持できるとは思えません。内燃機関(エンジン)の製造は日本人の気質に合っていますが、ソフトウエアは苦手科目です。
商社は30年後さらに存在感を増していると思います、日本特有の総合商社という形態は、スクラップ・アンド・ビルドという新陳代謝を繰り返し、アメーバのように世界で生き残っていけるのではないでしょうか。日本人は大きな戦略を練るのは苦手ですが、アメーバ型の経営では力を発揮できると思います。
このように分野によって濃淡はありますが、総じて日本の会社は海外からおカネやヒトを引き付けるだけの魅力を維持できていると思います、その点で僕は楽観していますが、逆に言えば「日本の支えは会社だけ」だともいえます。ただし日本をけん引する会社は、この30年でそっくり入れ替わると思います。少し気の長いお話にはなりますが、新時代の日本をけん引する会社を見つけ、長期的な視点での投資が有効だと思います。
そんな新時代をけん引する企業は、高いお給料で世界から人材を集めるでしょうが、それ以外の会社にはそんな余裕はありません。国民の所得水準も差が開き、一部の有能な人材がより豊かになる一方で、多くの日本人は低収入に甘んじることになるでしょう。
政治
僕は今の政治になんの期待もしていません。競争にさらされることなく、また政治家として自らの資質を高める努力もなく、この30年を無為に過ごしてきた結果がいまの体たらく(ていたらく)です。でも政治家の劣化は私たちにも大きな責任があります、「一国の政治の質はその国の民度を超えることはない」と僕は思います、言い換えれば今の政治家の劣化は、私たち日本国民すべてに責任があると思います。残念ではありますが、向こう30年でこの状況が改善されるとは思いません、せめて政治は企業の成長の邪魔をしないようにしてほしいものです。
財政
財政と政治は切り離して語ることはできません、上記のような理由で僕は、むこう30年の政治になんの期待もしていませんが、裏を返せばそれは日本の財政がさらに悪化するということです。僕は財政破綻を煽るのは好きではありませんが、少なくとも過去30年に比べると、今後の30年、日本の財政破綻の可能性は高まると思います。たくさんおカネがある人ほど、備えが求められるでしょう。そのような観点で、日本人の海外資産投資はさらに進むでしょうし、同じ理由で現物資産も買われるでしょう。
経済
上記のようにさらに競争力を高める会社がある一方で、努力を怠って退出を余儀なくされる会社もたくさんあると思います、でもそれは経済にとって悪いことではありません、人口減にともなって減ってゆく労働力が、生産性の低い会社から高い企業に移動することによって、日本全体でみれば生産性と競争力は維持できると思います。
30年も続いたデフレの経験から、私たち日本人はようやく人材流動化の大切さに気付いたように思います。特に若い世代はこの傾向が顕著です、今後はもっと生産性が高い会社への人材流入が進むはずで、これは日本全体の競争力と生産性を高めるでしょう。30年後の日本は今より強いいくつかの企業が育っていると思います、これは日本経済にとって大変良いことだと思いますし、物価や為替にも好影響を与えると思います。一方で自己研鑽によって高いスキルを身に着けた人材と、そのほか大勢の人たちの間で大きな所得の格差が生まれるでしょう、日本経済全体では一定の競争力を維持しつつ、収入の格差が広がるイメージです。
金融政策と為替相場
いよいよ日銀は利上げに動きそうです。これは日本経済がデフレから脱し、再び成長軌道に乗るための必要なプロセスです。でも今の日本経済をみると、ようやく正常化に向けて動き出したばかりの段階で、とてもではありませんが政策金利を1%、2%と上げてゆけるような状態ではありません。上記のように僕は、日本経済は企業の生産性向上によって強さを取り戻してゆくと考えていますが、それは1980年代のように日本企業が再び黄金期を迎えるイメージではありません、世界でみれば、生産性ランキングで20位程度、今でいうならスペイン(19位)やイギリス(18位)、カナダ(17位)、ドイツ(16位)あたりが目安になると思います、ちなみにいまの日本は35位です。
注)2022年、1人あたりの労働生産性(OECD統計)より
30年後の金融政策を予想するのは至難ですが、上記予想のように、日本企業が競争力を取り戻し、デフレが過去のものになるならば、政策金利は1-2%程度が標準値になっているはずです、生産性の上昇によって国際競争力が維持できるならば、ドル円相場は、なんとか1ドル=160円から180円あたりで踏みとどまれると思います。
総合すると
以上ほんのエッセンスだけ書いてきましたが、まとめますと
- 人材の流動化にともない、強い企業はより強くなる、日本全体でみると競争力はやや高まる傾向だが貧富の格差は広がる
- ながらく続いたデフらからようやく脱出し、30年後は低いながら政策金利は1-2%程度とプラスを維持できる、足元で急速に円安が進んでいるが、これからは成長性の高まりを織り込む形で円安に歯止めがかかる、それでも30年後はせいぜい1ドル=160円から180円あたりが妥当値
- 政治家の劣化は続き、放漫財政はおさまらない、結果として過去30年より財政破綻の可能性は高まる
以上が30年後の日本に対し、いま僕がもっているイメージです。
決してお先真っ暗ではありませんが、かといって日本大復活のイメージもありません、これは皆さんの多くが持っている30年後のイメージより、少し明るい見通しだとおもいます。
「30年も先の話をするな」といわれそうですが、あながちそうとばかりは言えません、もし30年前に今の日本を予想できたなら、私たちの資産運用スタイルは随分と変わっていたはずです。
単なる入札代行ではなく、このサイトの主催者である田中がコンサルさせて頂きます、
コイン初心者の方でも安心してご利用いただけます。