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From the economic column I wrote in the past

積立投資について深く考えてみる

2024年8月31日

先日のメルマガで、僕は積立投資の問題点を指摘しました。今回はさらに深堀したいと思います。積立投資は僕が20年ほど考え続けたテーマです、この問題はすでに僕にとってライフワークになりかけているかもしれません。

ではまず積立投資の長所からです。

積立投資の長所

積立投資の長所について、すでに積立NISAの導入で世間一般に知られるようになりましたが、改めて簡単に触れておきます。

  1. ドルコスト法による買い付け価格の平準化

    たとえば毎月10万円でTOPIX連動ファンドを買うとしましょうか、仮に一口が1万円なら10口買うことができます、翌月5000円に下がったら、買い付け口数は20口に増えます。こうやって株価が高い時は少なく買い、下げたらたくさん買えますので、購入単価を下げることができます。かりに株価というものが細かい上下動を繰り返しながら、長い時間軸でみれば上がってゆくならば、積立投資は合理的な投資手法だといえるでしょう。

    もちろん私たちに予知能力が備わっていて、短期的な相場の底値がわかれば話は変わってきます、たとえば1000万円を10年に分けて買うよりは、最適なタイミングで1000万円ぶん買ってしまったほうが運用期間は長くなり、それだけ儲けも多くなるはずです。

    でも人間に予知能力はありません。

    最適なタイミングだと思って買ったら、さらにそこから下がったというケースはよくあることです。そのようなリスクを避けるため、多少のリターンを犠牲にして、

    • 買い付け価格の平準化
    • 買い付け単価の抑制

    この2点を同時に実現できる手法が積立投資だといっていいでしょう。

  2. 精神的な安定

    積立投資には上のような効用がありますが、これは単に運用上の技術論にとどまらず、私たち運用者のメンタルにも好ましい影響を与えます。

    僕がこの商売を始めて20年になりますが、この間ホントにいろんな人に出会いました。なかには腹のすわった人がいて、多少の株価変動など気にならない人もいます。が、そんな人は少数派で、大半の人は株価の下落に対して過敏です。10%ほど下げただけでしょんぼりしてしまう人もいますし、眠れなくなる人もいます。最近はやりの行動経済学では、「人は儲けより損失のほうに大きく反応する」と言われているようですが、確かに人にはそんな面はあると僕も思います。

    そんな行動経済学的な観点から見ても、積立投資は理にかなっていると思います。

    たとえば積立中に株価が半分になったとしても、次回の出資では半値で入手できますので、株価の下落は決して悪いことばかりではありません。もちろん右肩下がりでは困るのですが、僕が知る限り、右肩下がりの最長記録は日本で1990年から2008年に起きた18年です。そもそも株価は企業価値の証票です、ならば企業の集合体であるインデックスは、ギザギザしながらも上がり続けると考えたほうが素直です。しかもTOPIXや日経平均、NYダウといったインデックスは、常に構成銘柄の入れ替えをやっています。成長が止まって老体化した会社は構成銘柄から外し、代わりに成長途上にある会社を組み入れるということです。

    このような点も併せて考えた場合、株価インデックスは長期的に上がり続けるという考えに違和感はありません。

    株価に対してこのような基本的な理解をもって望むなら、たとえ積立しているインデックが18年間下がり続けても、ストレスなく積立を続けられるのではないでしょうか。誤解のないように申し上げますと、さきほどの18年右肩下がりは滅多に起きない現象ですし、一つの国のインデックスではなく、世界的に分散しておけば、長期下落の不安はさらに小さくなります。

    以上みてきたように、長期積立投資は技術的な効果にとどまらず、私たち運用者の精神的な安定に資するという効果もあるのです。

  3. ほったらかしOK

    新NISA導入以降、多くの方が積立投資を始められたと聞きます。もちろん税制上の優遇やドルコスト法の優位点などあると思いますが、これだけ多くの人が積立投資を始めたもう一つの理由は、「ほったらかしOK」にあると思います。

    積み立ては投資対象と月々の投資額を決めれば、ほかにやることはありません。せいぜいネットで時価の推移を見守る程度ではないでしょうか。

    これは当たり前で、特にオルカンやS&P 500インデックスファンドのような、インデックスファンドに積み立てている場合、銘柄の入れ替えはもちろん、積立以外の売り買いは不要です。ただただ画面を見ておくだけでOKですし、極端にいえば積立していること自体、忘れてしまっても問題ありません。

    もちろん経済ニュースを観る必要はないですし、日本経済新聞を取る必要もありません、そんな面倒なことをしなくても成果に影響はないのです。

    多くの人が今年にはいって積立NISAを始めたのは、このような「ほったらかしOK」に惹かれた結果だと思います。

    でも、すべてのものにウラとオモテがあるように、積立投資にも問題点があります、以下お話しします。

積立投資の問題点

  1. 運用期間が長くなるほど、保有資産の上下動が大きくなる点

    仮に皆さんが、毎年100万円でS&P 500のインデックス投信を積立ていくとしましょうか。1年終わった時点では元本ベースで100万円、2年目に終わりには200万円になります。仮に3年目の初日に先日のような暴落に見舞われ、S&P 500が20%下落したとしましょう、この場合、皆さんのお手持ち資産は(元本ベースで)200万円⇒160万円に減ってしまいます。

    確かに気分は悪いでしょうが、この40万円の損失は、おそらく皆さんがお持ちの総資産から見れば、さほど大きな金額ではないはずです。しかも株価の下落は悪いことばかりではありません、今後はその安くなったS&P 500を買えるわけですから、むしろ買い付けの平均単価を下げる効果もあるのです。

    でも、例えば積立開始から20年たってから、この急落が起きたとしたらどうでしょう。毎年100万円の積立なので20年なら元本だけで2000万円です、S&P 500の長期的なリターンは年率5%(税引き後)ほどですから、20年後には3440万円(注)になっている計算です。

    注)
    ・元本: 100万円×20=2000万円
    ・収益部分:1440万円

    3440万円になった積立額が20%やられれば、2752万円になり損失は688万円です。仮に1億円の資産をお持ちの方なら被害率は約7%になり、これは決して小さな額ではありません。しかも積み立てを始めた頃と違い、挽回は容易ではありません。

    現実にはこのような急落は滅多に起きませんが、それでも「いつか起きるかもしれない」という高所恐怖症にとらわれて、皆さんのストレスレベルは年を追って大きくなっていくでしょう。

    つまり積立投資がお気楽なのは積立を始めた頃だけで、終着点に近づくに従って、いわゆる「一括投資」と同じ状態になるということです。

  2. 金融や経済の知識が身に付かないという問題

    積立投資の問題点として、もう一つあげておきたいのは「金融や経済の知識が身に付かない」という点です。

    積立投資の長所としてよくいわれるのは、上であげたように「ほったらかしOK」です。
    いわゆる「一括投資」と違って経済や金融の知識を身に付けたり、その知識が陳腐化しないように情報を更新したりといった、面倒な作業はいりません。

    でも逆に言えば、それが積立投資の問題点でもあるのです。

    上のように、皆さんが毎年100万円を積み立てますと、たとえば20年後にその残高は3400万円ほどになります、毎年200万円積み立てれば6800万円、300万円なら1億円を超える計算です。

    仮に皆さんが50歳時点で積立を始めた場合、20年後には70歳です。その時点の皆さんの資産規模にもよりますが、場合によっては積立額が総資産の半分ほどに達している可能性もあるでしょう。

    その時点で皆さんは考えるに違いありません。

    「株のまま置いておくと上下動が激しく、何か別のものにおカネを移したい」
    「でも売り時がわからないし、そもそも売ったおカネで何を買っていいのかわからない」
    「かといって現預金で置いておくのも不安だ」
    「アメリカ国債は選択肢としてアリだと思うが、今が買い時なのかどうか、今後為替はどう動くのか」

    そして「そもそもこのおカネをどうしたらいいのか」

    40歳代や50歳代だったら新しい情報もどんどん吸収できますが、高齢になると情報の吸収や咀嚼力は衰えるのが普通です。「ほったらかしOK」で長年やってきただけに、70歳になって金融や経済の勉強を一からするのは難しいでしょう。

    積立投資の逆、すなわち定期売却という、「出口のほったらかし」もないわけではありませんが、その間も手持ちの株は価格変動リスクにさらされたままです。相場が上がっているときの取り崩しはストレスを感じませんが、相場下落時に取り崩す作業は高いストレスを伴います。

    ちょっと酷な言い方かもしれませんが、「ほったらかしOK」と考えて積み立て一辺倒で来た人は、本来やるべき情報収集や勉強を先送りしてきただけです。そして70歳にして、そのツケ払いを請求されることになるでしょう。

ではそんな選択肢があるのか

上記のように長期積立は長所と短所が混在した手法です。積み立てを始めた頃は、その短所に気づきませんが、皮肉なことに積立が成功し、積立額が増えれば増えるほど短所に悩まされることになるのです。

では私たちはどのようにして、この積立投資に向き合ってゆけばいいのでしょう。

もちろんスタート時点において、ライフプランを想定して計画的に資産配分を行うのは不可欠ですが、そのうえで積極運用資産のなかで長期積立と一括投資の配分を定め、運用するべきだと僕は思います。さらに言えば、このなかには積立投資をしないという選択もあっていいと思いますし、僕自身も積立はやったことがありません。

たとえば積極運用資産として3000万円を配分した場合、その半分を20年でインデックスファンドに積立てゆく、残った半分は一括投資でインデックファンドや個別株で運用してゆくといったイメージです。保守的な人は積立投資の比率を高めてもいいかもしれませんし、逆に積極運用ご希望の方なら個別株の一括投資の割合を上げていいかもしれません。

大切なのは「積立投資バンザイに」なってしまわず、大局的な目で資産運用と向き合うこと、あと貪欲かつ真摯に知識の習得に努めることだと思います。

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